宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

第8話 いたずらな吐息

 二十歳の誕生日を目前にして、エラは崖っぷちに立たされていた。

(ああ! どうしてこんなに覚えることが多いの……!)

 目の前に積まれるのは分厚い書物の数々だ。その山にうずもれて、何冊も同時にページをめくりながら、大切な個所は羊皮紙にメモを取る。その作業をエラは一日中繰り返していた。

「焦っては駄目だわ。ちゃんと頭に入れないと」

 自分に言い聞かせながら、羽ペンを握りしめる。羊皮紙は安いものではない。インクをにじませないよう、慎重にペン先を滑らせた。

 エラが今やっているのは「準女官」の資格を取るための勉強だ。

 リーゼロッテはいきなり遥か東宮へと連れていかれてしまった。すぐにでも追いかけようとしたエラだったが、東宮に住まうは王族のひとり、しかも第一王女ときた。

 王族の居住区に世話係として、ただの侍女は足を踏み入れることは許されない。その資格を持つのは女官だけだ。招かれてその場に滞在することになった貴族の世話も、女官がするものと決まっていた。
 しかし女官に準ずる作法を身に着けた侍女は、準女官の資格を与えられる。王族の世話はできなくとも、滞在する貴族の世話だけは可能になるのだ。

(リーゼロッテお嬢様のために、なんとしても試験に合格しなくては……!)

 この試験は希望があればその都度実施してもらえるが、未婚の令嬢は受験資格が二十歳未満という縛りがあった。既婚者は制限がないらしいが、とにかく独り身のエラは、二十歳の誕生日を迎える前にこの試験に絶対に合格しなくてはならなかった。

(お嬢様はどんなに心細い思いをされていることか)

 ひとり(さら)われるように連れていかれたリーゼロッテを思うと、エラの心は千々(ちぢ)に引き裂かれそうだ。届いた手紙には元気でやっていると書かれていたが、やさしいリーゼロッテのことだ。いろいろと気を使って、きっと我慢をしていることだろう。
 一刻も早く試験を受けて、リーゼロッテの元に駆け付けたい。その一心で試験勉強に励んでいる。

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