宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 試験内容は後宮で身に着けるべきしきたりや作法がほとんどだった。長い歴史の中、形式的な手順を取る複雑な作法が多く、文字だけでは理解できないことも数多い。
 そんなこんなで公爵家の書庫に入り浸って、机にかじりつく日々を送っているエラだった。

「エラ様、あまり(こん)をお詰めにならない方が……。食事もろくにお取りにならないと、マテアスが心配しておりましたよ」

 やってきたのは公爵家の侍女長を務めるロミルダだ。マテアスの母である彼女は、侯爵令嬢から使用人になった変わり種である。

「そうは言っても時間がなくて……」
「ちゃんと栄養を取らないと、効率も上がらないというものですよ。昼食がてら一度休憩なさってください」
「……はい」

 渋々握っていた羽ペンをペン立てに戻す。

「それでエラ様、明日王城に行く用事がございまして、よろしければわたしと一緒に参りませんか?」
「王城にですか?」
「エラ様は以前、リーゼロッテ様と一緒に王城に滞在されていたと聞きました。そのとき世話になった人間に、準女官試験のことを聞いてみてはいかがでしょう?」

 エラは目を見開いた。確かにあのとき、王城勤めの者といろいろと交流していた。滞在したのは王族の居住区外の客間だったが、後宮の女官も時々手伝いにきてくれていた。

「行きます! ぜひ一緒に行かせてください!」

 試験内容や、理解できない箇所も質問できるかもしれない。前のめりで返事をしたエラに、ロミルダは頷いて笑顔を返した。

「実はこれはマテアスが言い出したことなのですよ」
「マテアスが?」
「あの子はエラ様のことが心配で仕方ないみたいで。……それはそうと、エーミール様とは最近問題はございませんか?」

 ロミルダにはエーミールとの間にあったことを、マテアス経由で打ち明けた。これも女性同士の方が相談しやすいだろうというマテアスの気づかいだ。

「はい……あれからは特に何もありません」

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