宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 夢中になって彼女の感覚を追った。しかし、ある時からまったく反応が返ってこなくなったことにふと気づく。
 (いぶか)しみ、顔を上げる。無防備に肢体をさらけ出したまま、リーゼロッテは静かな寝息を立てていた。

 平和そうな寝顔をしばし見つめ、そこでようやくジークヴァルトは我に返った。混乱した頭が正常に働かない中、未練がましい指先が無意識にリーゼロッテの頬をくすぐった。不快そうに眉根を寄せて、リーゼロッテはその手を無造作にぺしっと払いのけてくる。

「リーゼロッテお嬢様……?」

 開け放した扉の向こう、衣裳部屋から声がした。血の気の引く思いで身を起こす。はだけそうな夜着の前をかき集め、ジークヴァルトはリーゼロッテをものすごい勢いで横抱きに抱え上げた。
 大股で衣裳部屋へと入ると、恐る恐る扉を伺おうとしていたエラと鉢合わせする。

「お嬢様っ!?」

 悲鳴を無視して、リーゼロッテを寝室へと無言で運ぶ。くにゃりと力が入っていない体を横たえて、上掛けのリネンで首元まで覆った。

「公爵様……一体何が……」

 青ざめたエラが震える声で問うてきた。乱れた夜着のリーゼロッテは気を失っている。自分のシャツも前がはだけられたままだ。

「酒が」
「え?」
「アンネマリー()に渡された菓子に酒が入っていた。故意ではない。不可抗力だ」

 いまだ整わない息が、荒く繰り返される。説得力などまるでないが、事実としてそう告げた。

 はっと息を飲んだ後、エラは冷静でいてどこか躊躇(ちゅうちょ)するように口を開いた。

「公爵様……お嬢様のために、その、耐えてくださって、本当にありがとうございます」
「……あとは頼む」

 それだけ言って寝室を後にする。

「あの……! お酒を召した間のことは、お嬢様はいつもお忘れになられますから!」
「ああ、承知している」

 振り返らずに短く答えた。足早に自室に戻ると、アルコール交じりの甘いにおいと共に、彼女の残り香が(ただよ)っていた。

 ジークヴァルトは冷水を浴びた。それでも熱は収まらなくて、屋敷の廊下中を駆け、再び冷たい水を頭からかぶった。

 そんなことをジークヴァルトは、一晩中、何度も何度も繰り返した。





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