宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「おそろい!」

 間近から見上げられ、理性の糸がピンと張り詰める。

「わたくしのりゅうのあざ、ヴァルトさまとおそろい!」

 しあわせそうな顔でリーゼロッテが抱きついてきた。対の託宣を受けた者は、鏡写しのあざを持つ。彼女はそのことを言っているだけだと、懸命に自分に言い聞かせた。

 素肌のあざに頬ずりされて、かっと全身が熱を持つ。

「ヴァルトさまのここ、あつい……」

 驚いたように顔を離す。恐る恐る指であざに触れ、リーゼロッテは熱のこもった瞳を向けてくる。

「ね? ヴァルト様もわたくしのここ触ってみて? わたくしもあついの。だから、ほら」

 腕を掴まれ胸元へと導かれる。振りほどこうと思えばそうできたのに、ジークヴァルトの指先はリーゼロッテのあざへとそのまま触れた。
 お互いがお互いの龍のあざに触れている。電流のごとく耐え難い熱が、体中を駆け抜けた。

 気づいたときには口づけていた。乱暴に抱き寄せ、逃がさないようにと囲い込む。甘いカカオの味と共に、アルコールの芳香が口の中を広がった。

 浮かされるような吐息が、リーゼロッテの口から漏れて出る。それすらも飲み込むように、口づけを深めていった。

 腹に当てられていた小さな指が、鳩尾(みぞおち)のあざをなぞってくる。触れられるまま更なる熱に追い立てられて、ジークヴァルトの手がリーゼロッテのあざをなで返した。漏れる切なげな声に、夢中になって口づける。

 止めなくてはという考えすら、もはや浮かばなかった。ソファの上に組み敷いて、お互いの熱と息遣いだけが支配する。
 触れるほどに互いの熱が高まっていく。その熱さが自分のものなのか、彼女のものなのか。その境界すらも曖昧(あいまい)に溶けていく。

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