宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「あの、ジークヴァルト様……」
「なんだ?」

 走り出してすぐ、リーゼロッテはおずおずと口を開いた。夜会ではずっと一緒にいられるとはいえ、ふたりきりの時間はこの馬車の中だけだ。

 ドレスがしわになるから、行きは抱っこしないでほしい。前にそう言ったからか、今日は膝に乗せられることはなかった。しかし並んで座る椅子の上、いつもより距離を開けられているように感じた。

(やっぱり夕べ、酔っぱらって何かやらかしたのかしら……?)

 エラに聞いてもやさしく(かわ)されて、酔った時に自分がどんな言動をするのかはいつも教えてくれない。だが時間も時間だけにもう少し淑女の自覚を持てと、今回ばかりは叱られてしまった。

 ただ会いたい一心だったが、確かにジークヴァルトも昨夜は戸惑っていた様子だ。今もなんだかちょっぴりよそよそしい。やはり昨日、何か狼藉(ろうぜき)を働いたに違いない。
 ここは思い切って本人に聞くしかないと、意を決してジークヴァルトの顔を見上げた。

「夕べは申し訳ございませんでした。勝手に押しかけておいて眠ってしまうなんて……」
「いや、いい。問題ない」

 そう言いながらも、ジークヴァルトはすいと顔をそらした。これは何かをごまかしているサインだ。リーゼロッテは途端に涙目になった。

「やっぱりわたくし、酔って何か粗相を働いたのですね……! ヴァルト様、はっきりとおっしゃってくださいませ。わたくしは一体何をしでかしたのですか?」
「いや、別に何もしていない」
「そんなはずございませんわ。義父からも飲酒をきつく止められました。酔うとわたくしはどんな迷惑行為を働くと言うのでしょう。どうぞ本当のことを教えてくださいませ」

 にじり寄るとジークヴァルトはますます顔をそらした。

(そんなに言いづらいことなの!?)

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