宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 絶対にこの目を見ようとしないジークヴァルトを前に青ざめた。(から)(ざけ)でくだを巻く自分を想像する。万が一酒乱のDV女などになっていたら、ジークヴァルトも目のひとつもそらしたくなるだろう。
 これからずっと連れ添っていくふたりだ。先のことを思うと、この酒癖(さけぐせ)の悪さをうやむやにしていいはずもない。

「わたくしがお酒を飲んだばかりに、ヴァルト様にとんだご迷惑を……」
「昨日はオレが菓子を食わせたんだ。お前が口にしたのは不可抗力だろう」
「ですが、酔って口に出せないようなことをしたのでしょう? わたくし、今後一切、ヴァルト様の前ではお酒は飲まないと誓いますわ」

 若干取り乱しながら言う。

「いや、むしろオレのいないところで飲むのをやめろ。飲むならオレとふたりきりのときだけだ」
「ですが……」

 泣きそうになって見上げると、ジークヴァルトはものすごく困ったような顔をしていた。

「……わかった。酔うとお前がどうなるのか、婚姻が果たされたら教えてやる。それまでは絶対に酒は口にするな。今はそれでいい」

 何がそれでいいのかよく分からなかったが、リーゼロッテは素直に頷いた。要は酒を飲まなければいいだけの話だ。

「怒ってはいらっしゃいませんか……?」
「怒る? お前に対して何を怒るというんだ?」
「だって夕べはヴァルト様にご迷惑を……」
「お前にされて腹が立つことなどあるわけないだろう」
「え? だってそんな」

 きっぱりと言われて、何と答えればいいのか分からなくなる。

「……そんな甘やかすようなこと、言わないでくださいませ」

 やっとの思いで小さく言うと、ジークヴァルトにふっと笑われた。なんだかちょっぴりくやしくなって、赤くなった頬のまま、唇を尖らせたリーゼロッテだった。

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