宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
(お嬢様がお酒を禁じられていることを、アンネマリー様はきちんとご存じのはずなのに……)

 いたずら心だったのかもしれないが、ひとつ間違えば大惨事になっていたかもしれない。

 酔ったリーゼロッテはとても無防備だ。誰かれなく抱き着いて、時に頬に口づけてくる。その姿は女のエラでさえメロメロになってしまうほど可愛らしくて、公爵にしてみれば好きに食べてくださいと言われたようなものだったろう。

 アルコールで記憶を失くし、目覚めたら純潔を奪われていた。そんなことが起きたら、リーゼロッテはどうなってしまうのか。

 男にとって、ああいった衝動を抑えることは難しいと聞く。自分の静止など()退()けられても、おかしくはない状況だった。

(でも初めからそのつもりでお嬢様を連れ込んだのなら、公爵様は部屋に鍵をかけていたはずだわ)

 開け放たれていた扉を見れば、酒が入っていたことを知らなかったという言葉は、嘘ではないと信じられた。危ないところではあったが、最終的にきちんと自制してくれた公爵に、今は感謝しかないエラだった。

「ジークヴァルト様にはきちんと謝らないといけないわね」
「お嬢様の寝顔が見られて、きっと公爵様もおよろこびですよ」

 エラの言葉にリーゼロッテは頬を染めた。こんな愛らしいリーゼロッテを前に、我慢を強いられている公爵に少しばかり同情心が湧いてくる。

(いやいや駄目よ。婚姻前に間違いが起きないようにと、旦那様に何度も言われているんだから)

 どのみちリーゼロッテは白の夜会が終わったら、再び東宮へと行くことが決まっている。今自分がすべきは、リーゼロッテのそばを離れないことだ。

(そのために、なんとしても準女官試験に合格しなくては……!)

 だが今日のところはリーゼロッテの夜会の準備が最優先だ。道中トラブルに見舞われることもあるため、余裕をもって出発しないとならなかった。

「お食事を済ませましたら、さっそくお支度に取りかかりましょう」
「ええ、いつもありがとう、エラ」

 そして夜会に出る一日が、慌ただしく幕を開けたのだった。

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