宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「っち。病弱ってのは演技(ガセ)かよ」

 エルヴィン・グレーデンは侯爵家の跡取りであるものの、幼いころから体が弱く、社交界に姿を見せる機会は今まで一度もなかった。現侯爵のエメリヒも、母親(ウルリーケ)の言いなりの傀儡(かいらい)侯爵として有名だ。そんな頼りないグレーデン家を見限る人間が、続出している現状だった。

(女帝の支配が無くなって、あちらさんも敵味方を整理してるってところか)

 捜査を進めるにあたって、別の組織が同じようなことを探っている痕跡を感じていた。それはすべてグレーデン侯爵の手によるものに違いない。

 気を取り直して荒れた部屋の中、赤ら顔のまま昏倒している男を見やる。この状況で近衛騎士に来られると、確かに厄介なことになりそうだ。こうなればエルヴィンはわざと倒れて大きな音を立てたのだろう。そう思うと余計に腹立たしくなってきた。

 この男に襲われたと騎士に泣きついてもよかったが、カイは密命で肩書もあやふやな謎の令嬢を演じている最中だ。どこの家の者かと問い詰められれば、ボロが出る可能性もある。

(こんなことでイジドーラ様の手を(わずら)わせるのもなぁ……)

 そっと扉に寄り、廊下の気配を確かめる。三人の騎士が近くまで来ているものの、まだ扉の前にはいなそうだ。
 迷いなく扉を開けて、異音を確かめに来た近衛騎士に向かって足早に進んでいく。スカートをつまみ上げ、顔を背けながらその横を通り過ぎた。

 駆け抜けた令嬢を驚き顔で目で追うものの、騎士は部屋を確かめることを優先したようだ。カイは逃げるように歩を進めるが、気配でそのうちのひとりが自分を追いかけてくるのが感じられた。

(いいからこっち来んなって)

 悪態をつきつつも逃げ場を探す。かさばる夜会のドレスは動きづらくて、こんなときは面倒だ。追っ手をまくために廊下をいくつか曲がり、目に留まった扉の前でカイはようやく足を止めた。ここはジークヴァルト専用の控室だ。

 ノブを回すも鍵がかけられている。仕方なく片膝をついて、結い上げられたかつらからピンを一本引き抜いた。鍵穴に差し込み慎重に中を探る。

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