宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 祈りの間から戻り、ハインリヒは自室で湯を浴びていた。
 深い瞑想に入るたびに、この国の核心を垣間視る。瞑想中に包まれる光の(うず)は心地よく、時にそれが恐ろしく感じることもあった。

(龍とは、一体何なのだ……)

 光の中、断片的に何か映像(ビジョン)がちらついた。幾度も瞑想を繰り返すたびに、それはつなぎ合わせると、国の歴史を示していることが(おぼろ)げながらも分かってきた。

 ――そこには知ってはいけない何かがあるようで
 ハインリヒは瞑想中、意識的にそこから目を(そむ)けてしまう。それを知ることが怖かった。

(神官長が言うには、今は()らしの段階であるらしいが)

 王になった(あかつき)に、自分はすべてを受け継ぐことになる。その時の衝撃を和らげるための措置が、今行っている瞑想とのことだった。

(こんな弱気で、わたしは本当に王になどなれるのか)

 浴室を出て寝室へと向かう。遅い時間のため、アンネマリーはすでに深い眠りについていた。お互い激務をこなす身だ。無理に起きて待たないようにと、ふたりで決めたルールだった。

「アンネマリー……」

 小声で呼びかけて、寝顔にそっと口づける。この存在がなかったら、以前のようにただ焦りばかりが先立っていたかもしれない。

 起こさないよう静かに横に潜り込む。柔らかく温かい肢体を抱き寄せて、ハインリヒは小さく息をついた。

「ああ……落ちつくな」

 明日も早朝に目覚めなくてはならない。しばらくは寝顔しか見られない日々が続きそうだ。アンネマリーの安らかな寝息に誘われて、ハインリヒもまどろみに落ちていく。


 龍歴八百二十九年、ハインリヒの王位継承は、すぐそこにまで迫っていた――






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