宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 整わない息のまま、ルチアはほっとしたように部屋を出ていった。アルベルトが声をかけるまで、クリスティーナは閉じた扉をじっと見つめたままでいた。

「クリスティーナ様……彼女は……」
「ええ、そうよ。あの()、ウルリヒ様の(むすめ)だわ」
「ウルリヒ様の……?」

 ウルリヒ・ブラオエルシュタインは、クリスティーナにとって祖父の叔父にあたる人物だ。亡くなって久しいが、かなり高齢まで存命していた。

(カイ・デルプフェルト……)

 義母(イジドーラ)(おい)の顔が脳裏をよぎる。龍は一体何がしたいと言うのか。そこに意味など見出(みいだ)せなくて、クリスティーナはそれ以上の言葉を失った。
 だが何が視えようと、その託宣を回避することも、見届けることも、今の自分にはできはしない。

 国の平和を守るための安寧(あんねい)(しるべ)、それが龍の託宣だ。視たくもないものを見通す力を、この身に与えたのもまた龍だ。
 慈悲深き存在は、どこまでも正しく、どこまでも理不尽で。無責任だからこそ、すべてに対して平等でいられるのか。

 答えのない問答(もんどう)は意味をなさない。そう思って考えないようにしてきたことが、今さらのように湧いて出る。

(間もなく時は満ちるのだから――)

 瞳を伏せ、言い聞かせるように自ら思考を遮った。


 夕暮れの迫る王都の街並みを、いつものようにクリスティーナは、窓から遠く見下ろした。






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