宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

第12話 受け継ぎし者 -前編-

 瞑想(めいそう)狭間(はざま)に視える映像(ヴィジョン)が頭をちらついた。貴族院会議の終わりに、席も立たずにぼんやりしていた自分に気づく。

「王太子殿下……随分とお疲れのようですね」
「いや、大丈夫だ」

 気づかわしげなブラル宰相に声を掛けられて、ハインリヒはすぐさま立ち上がった。次は貴族との謁見(えっけん)が控えている。ぼやぼやしていると予定の数をさばけない。貴族からの不平不満の芽は、極力減らしたかった。

「本日の謁見の数は予定より少なくなっております。なに、この悪天候で王城に来るのが億劫(おっくう)になった者たちが大勢出ましてね。そうお急ぎにならずとも、本日は十分(こな)せることでしょう」

 にこにこ顔でゆったりと言われ、ハインリヒは幾ばくか肩の力が抜けた。

「そうか……ではこの天候でも集まった者たちは、火急の訴えがあるのだな。待たせるのもよくない。すぐに向かおう」

「……いやはや、なんとも誠実なお方よ」
 足早に広い評議場を出ていくハインリヒを、ブラル宰相は感心と(うれ)いで見送った。

 予定より早い時間にすべての謁見を終え、ハインリヒは自室に向かっていた。余った時間で執務を片づけようかとも思ったが、休めるときは休むようにと宰相に追い帰されてしまった。
 正直なところ何もしないでいる時間を作りたくなかった。日々政務に明け暮れて、夜はアンネマリーをこの腕に抱いて眠る。夢も見ないほど疲れ果てていた方が、ハインリヒとしてはありがたかった。

 こうして後宮をひとり歩いているだけでも、あの瞑想の時間が頭をよぎる。回を経るごとに、断片的だった国の歴史が明らかになってきている。瞑想が深くなるほど視えてくるものは鮮明にこの目に映った。

 ただ歴史を知るだけではない。この国の()り方。そして、この国の成り立ち。

 国の核心に近づけば近づくほど、その先に龍の存在が見え隠れした。

(わたしはその先を知るのが怖い――)

 祈りの間での儀式の果てに、青龍の御許(みもと)に行けるのだと神官長は言う。しかしそれが本当なのか、真実を知るのはこの国の王だけだ。

< 165 / 391 >

この作品をシェア

pagetop