宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
第12話 受け継ぎし者 -前編-
瞑想の狭間に視える映像が頭をちらついた。貴族院会議の終わりに、席も立たずにぼんやりしていた自分に気づく。
「王太子殿下……随分とお疲れのようですね」
「いや、大丈夫だ」
気づかわしげなブラル宰相に声を掛けられて、ハインリヒはすぐさま立ち上がった。次は貴族との謁見が控えている。ぼやぼやしていると予定の数をさばけない。貴族からの不平不満の芽は、極力減らしたかった。
「本日の謁見の数は予定より少なくなっております。なに、この悪天候で王城に来るのが億劫になった者たちが大勢出ましてね。そうお急ぎにならずとも、本日は十分熟せることでしょう」
にこにこ顔でゆったりと言われ、ハインリヒは幾ばくか肩の力が抜けた。
「そうか……ではこの天候でも集まった者たちは、火急の訴えがあるのだな。待たせるのもよくない。すぐに向かおう」
「……いやはや、なんとも誠実なお方よ」
足早に広い評議場を出ていくハインリヒを、ブラル宰相は感心と憂いで見送った。
予定より早い時間にすべての謁見を終え、ハインリヒは自室に向かっていた。余った時間で執務を片づけようかとも思ったが、休めるときは休むようにと宰相に追い帰されてしまった。
正直なところ何もしないでいる時間を作りたくなかった。日々政務に明け暮れて、夜はアンネマリーをこの腕に抱いて眠る。夢も見ないほど疲れ果てていた方が、ハインリヒとしてはありがたかった。
こうして後宮をひとり歩いているだけでも、あの瞑想の時間が頭をよぎる。回を経るごとに、断片的だった国の歴史が明らかになってきている。瞑想が深くなるほど視えてくるものは鮮明にこの目に映った。
ただ歴史を知るだけではない。この国の在り方。そして、この国の成り立ち。
国の核心に近づけば近づくほど、その先に龍の存在が見え隠れした。
(わたしはその先を知るのが怖い――)
祈りの間での儀式の果てに、青龍の御許に行けるのだと神官長は言う。しかしそれが本当なのか、真実を知るのはこの国の王だけだ。
「王太子殿下……随分とお疲れのようですね」
「いや、大丈夫だ」
気づかわしげなブラル宰相に声を掛けられて、ハインリヒはすぐさま立ち上がった。次は貴族との謁見が控えている。ぼやぼやしていると予定の数をさばけない。貴族からの不平不満の芽は、極力減らしたかった。
「本日の謁見の数は予定より少なくなっております。なに、この悪天候で王城に来るのが億劫になった者たちが大勢出ましてね。そうお急ぎにならずとも、本日は十分熟せることでしょう」
にこにこ顔でゆったりと言われ、ハインリヒは幾ばくか肩の力が抜けた。
「そうか……ではこの天候でも集まった者たちは、火急の訴えがあるのだな。待たせるのもよくない。すぐに向かおう」
「……いやはや、なんとも誠実なお方よ」
足早に広い評議場を出ていくハインリヒを、ブラル宰相は感心と憂いで見送った。
予定より早い時間にすべての謁見を終え、ハインリヒは自室に向かっていた。余った時間で執務を片づけようかとも思ったが、休めるときは休むようにと宰相に追い帰されてしまった。
正直なところ何もしないでいる時間を作りたくなかった。日々政務に明け暮れて、夜はアンネマリーをこの腕に抱いて眠る。夢も見ないほど疲れ果てていた方が、ハインリヒとしてはありがたかった。
こうして後宮をひとり歩いているだけでも、あの瞑想の時間が頭をよぎる。回を経るごとに、断片的だった国の歴史が明らかになってきている。瞑想が深くなるほど視えてくるものは鮮明にこの目に映った。
ただ歴史を知るだけではない。この国の在り方。そして、この国の成り立ち。
国の核心に近づけば近づくほど、その先に龍の存在が見え隠れした。
(わたしはその先を知るのが怖い――)
祈りの間での儀式の果てに、青龍の御許に行けるのだと神官長は言う。しかしそれが本当なのか、真実を知るのはこの国の王だけだ。