宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 瞑想で垣間視た内容は龍によって目隠しされる。この言いようのない不安を、アンネマリーにすら打ち明けられずにいた。最近は精神ばかりか体も不調を訴えてくる。それでも公務の手を抜くこともできずに、ハインリヒは無理やり自身を奮い立たせていた。

「……父上!?」

 いきなり目の前に現れたディートリヒに驚きの声をあげた。しかしぼんやりと歩いていたのは、自分の方なのだろう。王に礼を尽くさないハインリヒに、ディートリヒの後ろを続いていた近衛騎士が(いぶか)しげな顔を向けてくる。

「王太子殿下、後宮とは言え王の御前でございます」
「よい。人払いを」

 ディートリヒの言葉に、騎士がこの場を辞していった。後宮は元々人が少ない場所だ。静まり返った廊下でハインリヒは、父王とふたりきりとなる。

「眠れぬか?」
「いえ……そういうわけでは……」

 顔色の悪さを誤魔化すように視線をそらした。アンネマリーと身を寄せ合って眠るときだけ、嘘のように不安が和らいだ。そうは言っても、容赦(ようしゃ)なく朝はやってくる。眠れているからなんとか持ち(こた)えられている。そんな(あや)うい状況だった。

「……父上、祈り儀の目的とは一体何なのですか?」
「瞑想が怖いか?」

 胸の内を正直に伝えるということは、自分の弱さを認めることだ。だがハインリヒが求める答えを、目の前にいるディートリヒ王だけが知っている。
 しかしなんと訴えればいいというのか。国の守護神である青龍に対して不振の心を抱いているなど、王太子の立場で口に出せるはずもない。

 それでもハインリヒは言葉を得たかった。この不安を(ぬぐ)い去る、前に踏み出すための確かな何かを。

「この国とは――」
「案ずるな。すべては龍の(おぼ)()しだ」

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