宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

第13話 受け継ぎし者 -中編-

「おめでとう、アンネマリー! わたくしに(おい)ができるのね!」

 王妃の離宮を訪ねるなり、第三王女のピッパが飛びつくように抱き着いてきた。勢いでよろけたアンネマリーに、慌てたハインリヒがその背を支える。

「ピッパ様、王女ともあろうお方がなんと落ち着きのない」
「だってうれしいんだもの! アンネマリーに赤ちゃんができたのよ?」
「また呼び捨てなどにして。アンネマリー様は間もなく王妃殿下になられるのですよ」
「いいのよ、ルイーズ。今は公式な場でもないのだから」

 ピッパを(たしな)める女官のルイーズに、アンネマリーは穏やかな笑顔を返した。

「いいえ、ピッパ様はこれから多くの貴族の前に出る機会が増えてまいります。公私をきちんと使い分けられるならともかく、今のままでは目も当てられないことになりかねません」
「場をわきまえることくらいわたくしにだってできるわ」

 不服そうに言ってピッパは優雅に淑女の礼を取る。

「アンネマリー王太子妃殿下、ご懐妊おめでとうございます。国の安泰を思うと、わたくしも王女としてよろこばしいですわ。(すこ)やかな御子の誕生を、心よりお祈り申し上げております」
「あたたかいお言葉に感謝します、ピッパ王女」

 それに向けてアンネマリーも鷹揚(おうよう)に頷いた。

「ほら、どう? ちゃんとできるでしょう?」

 ピッパが自慢げに胸を反らせたときに、カイを連れたイジドーラ王妃が姿を現した。

「アンネマリー、体調に問題はなくて?」
「はい、イジドーラお義母様。まだ実感はないのですけれど、なんだか最近やたらとお腹が空いてしまって……」
「子が欲しがっているのね。気にせず食べるといいわ」

 アンネマリーの両手がそっと腹に添えられる。その上にハインリヒの手が重ねられ、ふたりはしあわせそうに微笑み合った。

「ハインリヒ様、この度は誠におめでとうございます」
「ああ、ありがとう。カイ……お前にはいろいろと気苦労をかけた」
「いいえ、すべて順調に事が運んでオレも本当にうれしく思っていますから。それでハインリヒ様は、もう女性に触れても大丈夫になったんですよね?」
「え? ああ……そう、だな。恐らくそのはずだ」

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