宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「もう分かったからあっち行って」
「イチオウ、忠告だけはしましたカラね」

 ここは自室の居間ではあるが、バルバナスと共用だ。寝室は別々だが、ランプレヒトを含めて三人で過ごしている部屋だった。

 再びひとりきりになったアデライーデは、暖炉で踊る炎を見つめながら、クッションの中に身を沈めた。そのひとつを胸に抱き、深く息をつく。
 今日はまたあの夢を見そうだ。そんな予感は大抵当たってしまう。

「何しけた顔してんだ?」
「ちょっと……!」

 いきなりブランケットをはぎ取られる。心地よい温もりを奪われて、アデライーデはいつの間にか戻っていたバルバナスを(にら)み上げた。

 バルバナスはそのブランケットを自分で羽織り、後ろにどっかりと腰かけた。そのまま引き寄せ、アデライーデを腕の中に囲ってくる。バルバナスごとブランケットに(くる)まれて、再び心地よい熱が戻ってきた。

「ハインリヒんとこ行ってきたのか?」
「ええ」
「そうか」

 バルバナスの胸に顔を預け、アデライーデは力を抜いた。耳に鼓動を聞きながら、充足(じゅうそく)安堵(あんど)(つつ)まれる。

 アデライーデはバルバナスに連れられて、ここ騎士団の城塞へとやってきた。毎晩のように悪夢にうなされ泣き叫んでいたアデライーデに、バルバナスはいつだって寄り添うように温もりを与えてくれた。それは今になっても変わらない。

 この暖かさが傷ついた少女のままでいることを許してくれる。自分が過去を捨て切れないのは、バルバナスがいるからなのだろう。
 そう思ってもアデライーデは、心地よい腕の中から抜け出すことはできなかった。武骨な手が、あやすように頭を撫でていく。

「今夜はずっとこうしててやる。心配せずぐっすり眠れ」

 ここなら怖い夢を見ることはない。そんな確信の中、訪れた睡魔に(あらが)うことなく、アデライーデはまどろみに沈んでいった。

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