宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 ひんやりと沈黙を貫く牢獄に、レミュリオは今日も足を運んでいた。年内最後の訪問だ。騎士のひとりに案内されて、いつもの牢の前で足を止めた。

「では、時間になったらまた迎えに来ます」

 鍵を開けると騎士は去っていく。牢の(ぬし)は開け放たれた扉に目をくれることなく、簡素な寝台の上であぐらをかいて瞳を閉じていた。

「ミヒャエル様、瞑想中に失礼します」
「レミュリオか……」

 静かに開かれた瞳はいつになく澄んでいる。(めし)いたレミュリオには目視はできないが、以前と同一人物とは思えないほどの穏やかな気を、ミヒャエルはその身に(まと)っていた。

「今日は良いお知らせが。ハインリヒ王子が王位を継ぐにあたって、ミヒャエル様の罪が軽減されることとなりました。ミヒャエル様は神殿へと移り、そこで余生を過ごすようにとのことです。神殿の監視下には置かれますが、今よりもずっと自由が与えられるそうですよ」
恩赦(おんしゃ)など()らぬ」

 短く言って、ミヒャエルは再び瞳を閉じた。

「王がお決めになったことですから。どのみちここから出られるのは、王位継承の儀が済んでからになるでしょう。年明けにまた参りますので、詳しいことはその時にでも。どうぞ良き年をお迎えください。ミヒャエル様に青龍の加護があらんことを」

 最後に祈りを捧げ、レミュリオは牢から出ていった。思いのほか早く戻ってきたレミュリオに、騎士が慌てて鍵を掛けに行く。

 来た廊下を振り返り、レミュリオは表情なくつぶやいた。

「……所詮(しょせん)は青龍に選ばれもしなかった男。再びチャンスを与えられたところで時間の無駄でしたか」

 その言葉を耳にする者はなく、レミュリオは冷たい牢獄を後にした。

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