宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 国境付近にある騎士団の城塞に戻ったアデライーデは、自室で暖炉の火を見つめていた。
 毛足の長いふかふかの絨毯(じゅうたん)に直接座り、クッションにうずもれながら過ごすのが冬の日常だ。ブランケットに(くる)まって、転寝(うたたね)するのがなんとも心地よい。

 年が明ければハインリヒが王となる。過去にしがみついても、時は勝手に流れていく。巻き戻せない時間に囚われたまま生きるのは、もういい加減やめにしたかった。

(ハインリヒにはああ言ったけど……)

 いまだにあの日を夢に見る。頻度は減ってはいるものの、繰り返される痛みと熱と苦しみが、先に進もうとするアデライーデを(はば)んでくる。

 (まき)()ぜる音を耳にしながら、抱えた(ひざ)に頭を乗せる。あの炎に身を投じてしまえたら。ここに座って幾度そう思ったことか。

「あでりーサマ、またそんなトコで寝ないでクダサイね」
「別にいいでしょ。ランプってほんと口うるさいんだから」

 声をかけてきたのはバルバナス付きの小姓のランプレヒトだ。見た目は可愛らしい少年の姿をしている。だがアデライーデがこの(とりで)に来て六年、ランプレヒトの姿はずっと成長していなかった。言動も大人びていて、本当はいくつなのか分からない謎な存在だ。

「ばるばなすサマがいないときにおカゼでも召されたら、ボクが怒られるんデスよ? リフジンにもほどがありマス」
「風邪なんか引かないわよ。ランプの薬、苦いから飲みたくないもの」
「甘くもつくれマスけどね」
「じゃあそうしなさいよ」
「いやデス。あのマズそうに(ゆが)められたカオを見るのがスキなんデス」

 ランプレヒトはバルバナスの世話をする以外は、部屋にこもって薬草を煎じて過ごしている。彼からはいつも青臭いにおいがする。もう慣れてしまったが、はやく部屋から出ていってほしかった。

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