宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「おう、エデラー嬢。今日も美人だな」
「レルナー様、ご無沙汰しております」

 廊下の途中でユリウスに呼び止められて、エラは丁寧に礼を取った。ユリウスはレルナー公爵の弟だ。ツェツィーリアの叔父であるが、なぜかフーゲンベルク家で護衛騎士を務めている。

「この度はツェツィーリア様のご婚約、おめでとうございます」
「ああ、あのがめつい兄上をうまく丸め込むとは、ダーミッシュ伯爵はなかなかやり手だな」
「旦那様は誠意を尽くされただけかと……。では、わたしはこれで失礼いたします」

 ユリウスは遊び人で有名だ。もういい年だがいまだに独り身のまま、だれ彼かまわず女性を口説いて回っている。エラも幾度か食事に誘われたことがあり、いつも断る理由を探すのに苦労していた。
 そそくさとこの場を去ろうとしたエラの手を、ユリウスは素早い動きで握ってくる。

「相変わらずガードが固いな。心配しなくてもいきなり取って食ったりはしないんだが」

 にかっと笑って近くに引き寄せる。そのままエラは壁際に追い詰められてしまった。
 向かい合わせで、ユリウスが壁に手をついてくる。逃がさないようにと囲われて、エラはちょっと面倒くさそうな顔をした。

「そうあからさまに嫌がられると、逆に本気で落としたくなるな」
「公爵様のお召しで、これから行かなければならないのです。どうぞお戯れはここまでに」

 そう言ってエラは、壁に背を預けたまましゃがみこんだ。ユリウスの腕を下からくぐり、壁ドンをあっさり抜け出していく。

「それは引き留めて悪かった。また今度な」

 悪びれもせず、にかっと笑顔を返され、エラは仕方ないというように再び礼を取った。

「では、御前失礼いたします」
「エラ……」

 背後から小さくかけられた声に、エラの体が強張(こわば)った。声の主を振り返りながら、視線を合わす前に礼を取る。

「グレーデン様、御用でしょうか」
「いや……わたしは……」

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