宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 無意識に延ばされたエーミールの手が、行き場なくさまよう。そんな様子のふたりを、ユリウスは興味深げに見やった。

「なんだ? ヨハンに続けてエーミールまでフラれたのか?」
「わたしとグレーデン様は初めからそのような仲ではございません」

 エラにしては強い語調で返された。

「わたしは急ぎますので、これで失礼いたします」

 ふたりに礼を取ると、エラは逃げるように去っていく。ユリウスはおもしろそうに自身の(あご)を指でさすりながら、その背を目で追った。

「エーミール、お前なにやらかしたんだ? よければ話を聞くぞ」
「叔父上……わたしは……」

 暗い顔でそのまま黙りこくってしまったエーミールの肩を、ユリウスは軽く拳でたたいた。

「なんて顔してるんだ、お前らしくもない。今度の王妃の夜会にはエデラー嬢も出るんだろう? ダンスに誘って離さないでいれば、すぐに機嫌も直るってもんだ。お前に特別扱いされれば、落ちない女なんていないだろう?」
「今回わたしは欠席の返事をしてあります」
「……ああ、女帝の容態はそんなに思わしくないのか」

 エーミールの祖母であるウルリーケは、今年に入ってずっと病の(とこ)に伏している。王妃の誕生日の祝う夜会をドタキャンするわけにもいかないので、身内の不幸がありそうな家は初めから欠席するのが常だった。

「叔父上、わたしもこれで失礼を」
 生気のない顔でエーミールはふらふらと行ってしまう。

「エーミールをもってしても難攻不落とは。エデラー嬢は本当にガードが固い」

 やれやれと言ったふうにユリウスは肩を(すく)めた。

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