宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

番外編《小話》それを言葉であらわすならば

「リーゼロッテお姉様……ルカのことでちょっと」

 フーゲンベルク家のサロンでのこと。おしゃべりの途中で声を(ひそ)めたツェツィーリアの口元に、リーゼロッテはそっと耳を近づけた。

「ルカがその……すぐふたりきりになりたがるから、わたくしちょっと困っていて……」
「まあ、ふたりきりに?」
「カーテンの物陰とか本棚の奥とかテーブルの下とか、すぐに引っ張り込もうとするのよ」

 無意識に唇を小さな指で押さえながら視線をそらす。頬を染めるその様子に、ルカの目的が丸分かりだ。

「わたくしから注意いたしましょうか?」
「だ、駄目よ! お姉様に泣きついたなんてルカに思われるのは悔しいわ」
「でしたらフーゴお義父様にお願いしてルカに……言うのも駄目ですわよね」

 意地っ張りのツェツィーリアは、あくまで自分の力で対処したいようだ。

「ねぇ、お姉様はどうしているの?」
「どう……とおっしゃられましても……」
「お姉様は大人でしょう? ふたりきりのとき、どうやってヴァルトお兄様をかわしているのか知りたいわ」

 前のめりで聞いてくるツェツィーリアに、リーゼロッテは戸惑った。ふたりきりのときジークヴァルトが自分にどうこうしてくることはほとんどない。

(むしろ人目のある場所ばかりでキスされているような……)

 ジークヴァルトの口づけはいつも唐突だ。誰も見ていない馬車の中なら、いくらでもしてくれてもいいのに。そんなふうに思っても、恥ずかしくて自分からは言いだせないでいる。

 しかし未来の姉として、ここはしっかりアドバイスすべきだろう。期待に満ちた瞳のツェツィーリアに、リーゼロッテはどや顔で頷いた。

「こういったことは初めが肝心ですわ。嫌なものは嫌だと、はっきり言うことが大事です。節度を持たない殿方は嫌いだと言えば、ルカだってきちんと分かってくれますわ」

 なんてことはない、ベッティの受け売りだ。嫌だと言っても(ほだ)されて、結局はあーんも抱っこもすべて許してしまっている。そんなリーゼロッテの言葉に、説得力はまるでない。

「だけどルカってば、婚約者だからふたりきりになるのも口づけるのも、何もおかしいことじゃないって言い張るのよ。それにわたくし、別に、い、嫌っていうほどではないし……」

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