宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 唇を尖らせつつ、もじもじと恥じらう姿にきゅうんとなる。思わずツェツィーリアを胸に抱きしめた。

(ルカの気持ちがよく分かるっ)
 ツェツィーリアが可愛らしすぎて、くらくらと眩暈(めまい)がしてくる。

「お、お姉様?」
「ああ、駄目ですわ……わたくしも我慢できない」

 顔を引き寄せ、薔薇色に染まる頬にやさしくちゅっと口づけた。ツェツィーリアは真っ赤になった頬を指で押さえ、はわはわと唇を震わせている。

「な、何? 何なのお姉様?」
「家族の親愛のしるしですわ」
「え? 家族の?」

 うっとりとした顔で頷くと、朱に染めたままの頬をツェツィーリアはぷっと膨らませた。

「申し訳ございません。わたくしツェツィーリア様が愛おしすぎて……」
「べ、別にいいわ、お姉様とは家族なんだから。わたくしだって昔はお母様やお父様とよくしていたもの」

 ぷいっと顔をそむけたかと思うと、今度はきっと睨みつけてくる。

「だからわたくしだってお姉様にするんだから!」

 少し怒ったようにリーゼロッテを引き寄せる。そのままツェツィーリアはリーゼロッテの頬にキスをした。

「家族の挨拶よ! いつしたっていいのよ、別に挨拶なんだもの!」

 恥ずかしさをごまかすように、早口でまくしたてる。それがまた愛らしすぎて、リーゼロッテは(たま)らず、もう一度やわらかな頬にキスを落とした。


「義兄上……大好きな姉と言えど、ツェツィー様をとられたくないと思ってしまうわたしは狭量(きょうりょう)な男でしょうか?」
「いや、その気持ちは分からなくもない」

 ルカとジークヴァルトはそんなふたりの様子を、先ほどから遠巻きに眺めやっていた。

「そうですか、少しだけ心が軽くなりました」
「ああ」

 ずっと見つめ合ったまま、リーゼロッテとツェツィーリアは互いの頬を両手で包み込んでいる。
 リーゼロッテがツェツィーリアの(ひたい)に口づけた。お返しのように今度はツェツィーリアがリーゼロッテの(ひたい)に口づける。

「義兄上……もうひとつだけお(うかが)いしたいのですが……」
「なんだ?」
「もしもあのふたりの間にわたしも入ることができたなら、どんなにしあわせだろうかと……そう考えているわたしを、義兄上はどう思われますか?」
「では、逆に問おう。その言葉をこのオレが言ったとしたら、ルカ、お前はどう思うんだ?」

 頬を染め、恥ずかしげに見つめ合うふたり。それは何人たりとも足を踏み入れてはならない花園に咲く可憐な花を思わせて。

「義兄上。わたしが間違っておりました」
「そうか。分かればいい」


 あの世界に男が入りこむなど――

((万死(ばんし)(あたい)する))






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