宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 この部屋に鍵がかけられたことはない。いつ何時(なんどき)も王女の元へ駆けつけられるようにと、そんなものは必要なかった。

「このような夜更けにどうなさったのですか?」

 落ち着き払った王女を前に、(たしな)めるように言う。有事の際ならともかく、王女が男の部屋に来ていい時間ではなかった。

 見ると王女は夜着にショールを羽織っただけの姿だ。体の線がはっきりと分かる出で立ちに、アルベルトは自らの上着を手に王女へと近寄った。

「時が満ちる」

 それを肩にかける寸前に、王女が言った。

「わたくしの時はもう満ちるわ」

 はっとなり、その目の前で片膝をついた。顔を伏せ、ただ次の王女の言葉を待つ。

「長い間、わたくしの()(まま)に付き合ってくれたこと、礼を言います」
有難(ありがた)きお言葉。なれどわたしの(いのち)はクリスティーナ様のもの。そのようなお気づかいは不要です」
「そう……ではアルベルト、最後にわたくしの(めい)(くだ)します」
「なんなりと」
「わたくしがいなくなった後、ヘッダを頼みます。あの()もそう長くは生きられないでしょう。残りの日々を(うれ)いなく過ごせるよう、尽力(じんりょく)なさい」
「王女殿下の仰せのままに」

 アルベルトは深く騎士の礼を取った。王女はヘッダが後を追うことを良しとしない。同時にアルベルトがそうすることも。

「そのあとお前は自由の身よ。地位も(うし)(だて)もハインリヒ王に任せてあるから、思うまま好きに生きなさい」
「過分なお言葉です」
「そのくらいの功績はあって(しか)るべきでしょう? この十六年、本当によく仕えてくれました」
「わたしの主人は今までも、そしてこれからも……クリスティーナ様おひとりでございます」

 震える声をどうにか抑えた。死したあとも見捨てないで欲しかった。永遠に自分の王女で居て欲しい。でないとこの世に未練など、すぐに失くしてしまうから。

「アルベルト・ガウス、今ここに誓いなさい。何があろうと必ず自分の生を(まっと)うすると。誇り高い貴方(あなた)の名にかけて、王女であるこのわたくしに誓いなさい」

 見透かしたように王女が言う。自分は死すら選べない。だがそれが彼女の望みなら、命がけで従うだけだ。

「クリスティーナ様に頂いたこの名にかけて誓います。必ずや、その(めい)を全うすると」

 王女は満足げに笑った。クリスティーナは最後までアルベルトを振り回す。でもそれでいい。いや、それがいい。そうすれば独りでもずっと生きていける。

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