宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 何もない部屋の中、アルベルトはいつものように剣の手入れをしていた。今までこれが活躍した事など(さいわ)いないが、いざという時に使えぬ(なまく)らでは目も当てられない。
 自分は王女の護衛としてそばにいる。例え、最後に役立たずに終わるとしても。

 王女に初めて目通りしたのは、もう十五年以上も前の話だ。
 まだ五歳の彼女を前にして、聡明(そうめい)な王女だとアルベルトは思った。それと同時に奔放(ほんぽう)な王女だとも、あの日思ったことを覚えている。

 アルベルトは王族と貴族の間にできた不義の子だ。あのままいったら(おおやけ)に知られることなく、存在をこの世から抹消されていたに違いない。
 地位もなく、(うし)(だて)はおろか、国の(せき)すら持たなかった。王族の血を引けど、そんな無力な子供の末路は知れたものだ。

『いらない子ならわたくしにちょうだい』

 ちらりとこちらを見ただけで、まるでおもちゃを強請(ねだ)るように王女は言った。その日からアルベルトは王女のものになった。同時に新しい名を与えられ、衣食住と命を保証された。

 はじめの印象通り、王女は自由で何物にも(とら)われない少女だった。気まぐれで、思ったが最後、その行動を止めはしない。おとなしく守られるなどしてくれなくて、アルベルトは王女に何度も振り回された。

 だがそれは逃れられない宿命に対する、代償(だいしょう)のような自由だった。それでもこの鳥かごの中、王女はいつでも美しくさえずり続ける。最後まで気高(けだか)()ろうとする、その(ほこ)りを守ることこそが、アルベルトに与えられた最大の使命だ。

 磨き上げた剣を置き、寝台に仰向けになった。高い天井を見上げながら、今日も王女のことだけを思う。

 ふいに扉の前に人の気配を感じた。それが誰のものなのかすぐに分かって、アルベルトは慌てて身を起こした。ノックもなしに開けられた扉に、半ばあきらめのため息を落とす。

「クリスティーナ様……」

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