宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「いいわ、顔をお上げなさい」
焼き付けるようにその姿を見上げた。菫色の瞳が、揺らめきながら見つめ返してくる。出会ったあの日から囚われたままだ。この色を永遠に忘れない。
「アルベルト」
視線を逸らさないまま名を呼ばれた。肩にかけられたショールが、前触れなく床に落とされる。それを目で追いかけて、再びはっと顔を上げた。
その動きを止めようと、咄嗟に手を伸ばした。その時すでに王女は、はだけた夜着を下へと落としてしまっていた。伸ばした指の先、すぐそこに一糸まとわぬ姿が惜しげもなく晒される。
「クリスティーナ様……!」
動揺で声が上ずった。見てはいけないと思うのに、その姿に目が吸い寄せられる。
中途半端に伸ばされたこの手を導いて、王女は自身の胸に押しあてた。熱い肌に触れ、アルベルトの口から息が短く漏れる。やわらかで吸い付くような手触りの先に、王女の早すぎる鼓動が伝わってきた。
「アルベルト……わたくしを抱いて。王女ではなく、ひとりの女として」
「クリス、ティーナ様……」
震える手は、その先に進めない。彼女は穢してはならない存在だ。戒めのように目の前に線を引き続け、最後までそう言い聞かせたまま、すべては終わるはずだった。
「クリスティーナと呼んで……今だけは立場など忘れて、ただのクリスティーナとして貴方に抱いてほしいの。これは命令ではなく、わたくしの最後の望み。アルベルトにしか叶えられない、たったひとつの本当の願い――」
クリスティーナはさらに一歩近づいた。この頬に手を添えて、やわらかな唇を寄せてくる。触れた吐息に何もかもが溢れ出て、もう止めることなどできなくなった。
かき抱き、奪うように口づける。クリスティーナから甘やかな吐息が漏れ、紅い唇がこの名を呼んだ。
「クリスティーナ……」
「アルベルト、もっと……もっと……」
強請られるまま口づける。乞われるまま、愛おしい名を幾度も呼んだ。
「お願い……アルベルトのすべてを、わたくしにちょうだい」
貪るように、どこまでも互いに溺れていく。
共に過ごした時間を。これから訪れる空白を。すべて埋めるため、この刹那、命を燃やすように熱を分け合った。
今だけは何もかもが満たされて――
落ちていく中このまま深い眠りにつけることを、ひとつになって、ただ願った。
焼き付けるようにその姿を見上げた。菫色の瞳が、揺らめきながら見つめ返してくる。出会ったあの日から囚われたままだ。この色を永遠に忘れない。
「アルベルト」
視線を逸らさないまま名を呼ばれた。肩にかけられたショールが、前触れなく床に落とされる。それを目で追いかけて、再びはっと顔を上げた。
その動きを止めようと、咄嗟に手を伸ばした。その時すでに王女は、はだけた夜着を下へと落としてしまっていた。伸ばした指の先、すぐそこに一糸まとわぬ姿が惜しげもなく晒される。
「クリスティーナ様……!」
動揺で声が上ずった。見てはいけないと思うのに、その姿に目が吸い寄せられる。
中途半端に伸ばされたこの手を導いて、王女は自身の胸に押しあてた。熱い肌に触れ、アルベルトの口から息が短く漏れる。やわらかで吸い付くような手触りの先に、王女の早すぎる鼓動が伝わってきた。
「アルベルト……わたくしを抱いて。王女ではなく、ひとりの女として」
「クリス、ティーナ様……」
震える手は、その先に進めない。彼女は穢してはならない存在だ。戒めのように目の前に線を引き続け、最後までそう言い聞かせたまま、すべては終わるはずだった。
「クリスティーナと呼んで……今だけは立場など忘れて、ただのクリスティーナとして貴方に抱いてほしいの。これは命令ではなく、わたくしの最後の望み。アルベルトにしか叶えられない、たったひとつの本当の願い――」
クリスティーナはさらに一歩近づいた。この頬に手を添えて、やわらかな唇を寄せてくる。触れた吐息に何もかもが溢れ出て、もう止めることなどできなくなった。
かき抱き、奪うように口づける。クリスティーナから甘やかな吐息が漏れ、紅い唇がこの名を呼んだ。
「クリスティーナ……」
「アルベルト、もっと……もっと……」
強請られるまま口づける。乞われるまま、愛おしい名を幾度も呼んだ。
「お願い……アルベルトのすべてを、わたくしにちょうだい」
貪るように、どこまでも互いに溺れていく。
共に過ごした時間を。これから訪れる空白を。すべて埋めるため、この刹那、命を燃やすように熱を分け合った。
今だけは何もかもが満たされて――
落ちていく中このまま深い眠りにつけることを、ひとつになって、ただ願った。