宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 夜が明けるその前に、クリスティーナは(きし)む体を慎重に起こした。隣で眠るアルベルトの顔を静かに見やる。

「わたくしの願いを、聞き届けてくれてありがとう……」

 汗で張りついた前髪を指でかき分け、その寝顔に口づけた。

 寝台から降り、クリスティーナは王女の顔になる。床に落ちたままだった夜着を身に着け、ショールを羽織り扉へと向かう。

 アルベルトを残し、クリスティーナはひとり部屋を後にした。


 閉められた扉の音を聞きながら、アルベルトは静かに瞳を開いた。天井を見上げながら、目の前に手を広げる。

 この手は何もつかめない。(いと)しい(ひと)を抱いていた腕の中は、これからもずっと空っぽのままだ。

「――クリスティーナ」

 (わず)かな名残(なごり)を閉じ込めるように、アルベルトは手のひらをきつく握りしめた。






< 232 / 391 >

この作品をシェア

pagetop