宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「クリスティーナ様……よろしかったのですか……?」
「何? アルベルトのこと?」

 神事のための支度を終えたクリスティーナに、ヘッダは遠慮がちに問いかけた。平然と聞き返した王女に、ヘッダは小さくうなずき返す。

「いいのよ。ああは言っていてもアルベルトのことだもの。いざとなったら身を(てい)して飛び出してくるでしょう?」

 王女は懐かしむように口元に笑みを浮かべた。好き勝手に行動しては、さんざ彼を振り回してきた。自分を守ることを使命としているアルベルトにとって、それはもはや条件反射のようなものだ。

 だが託宣を果たすその瞬間のクリスティーナを守るということは、龍の意思に逆らうことになる。それは禁忌を犯した異形の者に、アルベルトがなり果てるということに他ならない。

「託宣を(はば)むものを龍は絶対に許さない。だったら星に堕ちるだけ損というものよ」

 どうあっても託宣は守られる。彼を星を堕とす者などにするわけにはいかなかった。

「アルベルトはきっと反論するでしょうけど。ほんと、最後までつまらない男」

 何を想像したのか、クリスティーナは耳に心地よい声で笑った。

「でもいいわ」

 あの生真面目(きまじめ)なアルベルトの牙城(がじょう)を、一度きりでも崩すことができたのだから。

 長い年月、立場を踏み越えることをしなかったアルベルトだ。自分がどんなに無防備にしていようとも、その態度は憎らしいほど冷静で、非常時以外は一切この身に触れるなどしなかった。

 目の前で肌を見せた時のアルベルトの顔が忘れられない。大きく目を見開いて、余裕なく声が上ずって。

「だから……いいのよ」

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