宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 満足げなクリスティーナを、ヘッダは黙って見つめている。

「もう時間ね。すべてを終えるまで、あなたはここで待ちなさい」
「クリスティーナ様……」
「これはヘッダ、あなたに」

 クリスティーナは右手のハンドチェーンをはずして手渡した。これは手の甲にある龍のあざを隠すためのものだ。どうせ着けるならと、イジドーラが贈ってくれたとても美しい装飾だ。

 両の手のひらで受け取ったヘッダは、切なそうにそれを胸に抱きしめた。

「では、行ってくるわ」
「クリスティーナ様……!」

 神事に向かう背を、引き止めるように声がかけられる。

「龍の託宣は……何を(もっ)てしても、最優先されるべきことなのですよね?」
「ええ、そうよ。それは必ず守られなければならないもの。例え王命を受けようと、託宣を違えることは許されないわ」

 その言葉に、心を決めたようにヘッダは頷いた。

「いってらっしゃいませ。クリスティーナ様の行く道が、この先もずっと安寧でありますように……」

 最後の務めを果たしに行く王女を、晴れやかな顔で送り出す。

 一人残された部屋で、ヘッダは祈るようにハンドチェーンを握りしめた。愛おしそうに眺め、次いでそれを自分の手にはめていく。
 王女の手でいつも(きら)めいていた装飾が、甲の上で美しく輝いている。それはまるでこの手だけが、クリスティーナになったようだ。

 至福の笑みを浮かべたまま、ヘッダはそっと部屋を後にした。

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