宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「もう時間がありませんね。わたしはこのまま神事へと向かいます。マルコさん、あなたはいつもの部屋で終わるのを待っていてもらえますか?」
「わかりました」

 王城の敷地内に入り、レミュリオの背を見送った。マルコは反対の廊下を進み、控えのために用意された部屋へと歩を進めた。

 この辺りは人気(ひとけ)はほとんどないが、貴族に出くわすこともある。緊張を強いられるため、誰にも会わないうちにとマルコは駆け足で神官服の長衣を(ひるがえ)した。

 その部屋までもう少しという所で、突然大きな金属音がした。つんのめりながら止まった足先に、叩きつけられるように一振りの剣が滑り込んでくる。

 ひえっと情けない声を上げたマルコに、鋭い視線が向けられた。剣を投げつけてきた騎士に、射殺さんばかりに睨み上げられる。身をすくませたマルコを無視して、その騎士はすぐに行ってしまった。
 動悸(どうき)が収まらず、遠ざかる背が見えなくなるまで、マルコはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 ふと視線を足元に移す。そこには打ち捨てられたままの長剣が無造作に転がっている。立派な(さや)から僅かに抜けて、(はがね)(やいば)の根元が少しだけ覗いていた。その鋭利な輝きに、あの日ミヒャエルに刺さった短剣を思い出す。

 冷たい牢の床。見開かれた空虚な瞳。返り血で染まったこの体。

「い、やだ……」

 そう思うのに抜き身の部分に目が吸い寄せられる。そこに一瞬、夢で見た(くれない)の女神が映ったかに視えた。はっとするも磨かれた剣の刃には、おびえた自分の顔が映り込んでいるだけだ。

 刃の自分と目を見合わせる。

 映った向こうのマルコがその時、たのしげに口元を(ゆが)ませた。

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