宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「ではあなたはなぜ、あの日ミヒャエル様に会いに行ったのですか?」
「それは……」

 突き付けられた言葉に口ごもる。あの日の前夜、マルコは夢を見た。

 赤いビョウを差し出す美しい女神。(あか)い光を(まと)った女神から、マルコはそのビョウを受け取った。これをミヒャエルに届けなければ。なぜかそう思った瞬間に目覚めたマルコは、その日のうちに季節外れのビョウを、特に親しくもない神官から偶然もらった。

 それをどうしてもミヒャエルに食べてもらいたくて、誰にも内緒で牢獄にいるミヒャエルに会いに行った。

 だがミヒャエルの元へ行ったことも、その夢を見たことも、王城の騎士しか知らないことだ。夢の女神のことは事情聴取で包み隠さず話した。騎士たちは軽く受け流したようで、それについて特に言及(げんきゅう)はされなかった。

「マルコさん、神殿にもそれなりの情報網があるのですよ。隠そうとしても無駄なことです。王位継承の儀が行われた日のあなたの行動は、神官長もすべて知っておいでです」
「えっ!?」
「とは言えどうぞご安心を。今のところ神官長はあなたを(とが)めるつもりはないようです。ですが覚えておいてください。同様に、王家も神殿の内部を探っています。長い歴史で生じた軋轢(あつれき)の中、王家と神殿の力関係は(あや)うい均衡(きんこう)を保っている。それくらいこの国の内部は病んでいるのです」

 国の内情など話されてもマルコには何ひとつ分からない。だが罰せられることはないのだと知ると、急に胸が軽くなった。

「いいですか。あなたが夢見の力を持つと王家に知れたら、命を狙われることだってあり得るのですよ。それに貴族や神殿内にも()しきことを(たくら)む者もいます。あなたを手の内に引き込めば、国家転覆(てんぷく)すら夢ではないのですから」
「そんな……」
「夢見の力はそれほど危険なものなのです。あなたがその力を持つと知るのは一部の神官だけ。王家にも貴族にも、安易にそれを知られてはいけません」

 事の大きさに頭がついていけない。そこでマルコははっとなった。王女の東宮で、夢見の力のことをあの令嬢に話してしまった。彼女が自分を利用するなど考えられないが、もしほかの誰かに広めてしまったら。

「ああ、怖い話をしましたね。心配はいりません。あなたは神官長の(もと)で、今あるしきたりに(のっと)って神事を務めあげれば、そう問題は起きないでしょう。ゆめゆめ悪しき者の声に耳を傾けないよう、十分に注意をしてください」
「はい……そうします」

 青ざめて返事をしたマルコに、レミュリオは普段通りの柔らかい笑みを向けた。

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