宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 最後の神官が出て行って、いつものようにひとり残される。祈りの泉での務めもこれで最後だ。
 どんな形であろうと自分は命を落とす。そのためだけに生かされてきた。彼女の中で眠ったままの、聖なる力を解き放つために。

 泉に足を(ひた)し、水中の階段を降りていく。腰までつかり中央で祈りを捧げた。泉の水面(みなも)が光を放って、最果ての地にいるシネヴァの巫女が、同時に波を返してくる。

(おお)婆様(ばあさま)……間もなくわたくしの時は満ちます……ええ、そう……もう思い残すことはありません……わたくしは思うように生きられました」

 例え結末が決まっていようとも、選んだ道のりは自分の意思で辿ってきたものだ。満たされた日々に、今この胸に残るのは穏やかな感謝だけだった。

「ふふ……そうですわね。巫女が純潔であらねばならないなんて迷信に過ぎないと……わたくしが証明したことを、どうぞ後世の巫女にもお伝えください……」

 アルベルトが受け入れてくれなかったら、そのことだけが心残りになったのだろう。そんな想像に小さく笑みをこぼしながら、最後の神事に意識を戻した。

「ああ……神託が、来る」

 森の巫女に降ろされた神託が、クリスティーナの内にも伝わってくる。それを記録するのは外で待機する神官たちの役割だ。転送された龍の言葉を、自分はただ増幅し再生するだけだ。

「夢見を(つぎ)し者、見定めるまでは……(きた)る聖女を泉に招くべし……次に降りる言霊(ことだま)は……時を視てシネヴァの地まで迎えに来させよ……その役目負うべきは、断鎖(だんさ)を背負う青き者なり……」

 泉が白一色に包まれて、光の柱が立ち昇る。舞い上げられた髪が光に溶け込んで、そのまま消えてなくなってしまいそうだ。

 その感覚が消え失せて、神事が終わりを迎えたことを知る。名残(なごり)のように揺れる水面(みなも)だけが、静かに蝋燭(ろうそく)の光を返した。

 余韻が冷めやらぬ中、ふいをつくように浮かんだ映像(ビジョン)(うず)が、一瞬でクリスティーナを飲み込んでいく。追い詰められた首筋に突き付けられるのは、ひと振りの鋭利な剣。(したた)るは、(けが)れた赤の(しずく)

 その先にあるのはこの国の希望。失ってはならない唯一の光。

「……リーゼロッテ!」

 泉の階段を駆け上がり、部屋の扉を乱暴に押し開く。驚く神官たちの間をすり抜けて、クリスティーナはその場所をひたすら目指した。

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