宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
◇
「ではどうあっても彼をお帰しいただけないと言うことですね?」
「当然だ。神官と言えど、奴は王城で起きた事件の当事者だ。捜査は何も終わっていない」
敵意をむき出しにしているバルバナスに対して、神官長は冷静な態度のままだ。それがまた苛立つ原因となるようで、バルバナスは目の前にいる三人の神官を鬼の形相で睨みつけた。
老齢の神官長は表情を変えず、盲目の青年神官は沈黙を貫いている。もうひとりの中年神官だけが不快そうに眉をひそめた。
「では捜査が終わり次第、すぐに迎えに参ります。それまでは騎士団にお預けしますが、彼のことはどうぞ人道的に扱ってください」
「罪人をどう扱おうとこちらの勝手だ。神殿に指図される謂れはない」
「彼が罪を犯したとはまだ決まったわけではありません。騎士団長としてどうぞ冷静なご判断を」
「随分とふざけたことを言う。これだけ状況証拠が揃っているんだ。知らぬ存ぜぬで言い逃れできると思うなよ」
王城で起きた一連の騒ぎで、神官見習いの少年が騎士団に捕らえられている。だが何も知らないと供述するばかりで、一向に罪を認めようとしなかった。唯一現場に居合わせたリーゼロッテは話ができる状況にないため、今は回復を待っているところだ。
そんなときに神官長自らが、その少年を返せとやってきた。姪のクリスティーナ王女が殺害されたのだ。バルバナスから殺気が放たれるのも無理のない事だった。
アデライーデはニコラウスと共に、このやりとりを黙って見守っていた。バルバナスは一度怒りに火がつくと、全く以て手がつけられなくなる。話し合いに加わるというより、いざという時の抑えの要員としてこの場にいた。
アデライーデは慣れたものだが、ニコラウスといえば先ほどから、落ち着きなくハラハラと表情を変えてばかりいる。それがみっともなく思えて、アデライーデは誰にも気づかれないよう、ニコラウスの尻をぎゅっとつまみ上げた。
「いっ……!」
張り詰めた空気の中、潰されたカエルのような声が一瞬漏れる。集まる視線に青ざめて、ニコラウスは慌てて真面目顔で姿勢を正した。
「おまっ、こんな時になんてことすんだよ!」
「ニコが締まりのない顔してるからでしょ」
小声で言い合って、再び事の成り行きを見守った。ギリギリのところで理性を保っているが、バルバナスはいつ鞘から剣を抜いてもおかしくない臨戦態勢だ。
「ではどうあっても彼をお帰しいただけないと言うことですね?」
「当然だ。神官と言えど、奴は王城で起きた事件の当事者だ。捜査は何も終わっていない」
敵意をむき出しにしているバルバナスに対して、神官長は冷静な態度のままだ。それがまた苛立つ原因となるようで、バルバナスは目の前にいる三人の神官を鬼の形相で睨みつけた。
老齢の神官長は表情を変えず、盲目の青年神官は沈黙を貫いている。もうひとりの中年神官だけが不快そうに眉をひそめた。
「では捜査が終わり次第、すぐに迎えに参ります。それまでは騎士団にお預けしますが、彼のことはどうぞ人道的に扱ってください」
「罪人をどう扱おうとこちらの勝手だ。神殿に指図される謂れはない」
「彼が罪を犯したとはまだ決まったわけではありません。騎士団長としてどうぞ冷静なご判断を」
「随分とふざけたことを言う。これだけ状況証拠が揃っているんだ。知らぬ存ぜぬで言い逃れできると思うなよ」
王城で起きた一連の騒ぎで、神官見習いの少年が騎士団に捕らえられている。だが何も知らないと供述するばかりで、一向に罪を認めようとしなかった。唯一現場に居合わせたリーゼロッテは話ができる状況にないため、今は回復を待っているところだ。
そんなときに神官長自らが、その少年を返せとやってきた。姪のクリスティーナ王女が殺害されたのだ。バルバナスから殺気が放たれるのも無理のない事だった。
アデライーデはニコラウスと共に、このやりとりを黙って見守っていた。バルバナスは一度怒りに火がつくと、全く以て手がつけられなくなる。話し合いに加わるというより、いざという時の抑えの要員としてこの場にいた。
アデライーデは慣れたものだが、ニコラウスといえば先ほどから、落ち着きなくハラハラと表情を変えてばかりいる。それがみっともなく思えて、アデライーデは誰にも気づかれないよう、ニコラウスの尻をぎゅっとつまみ上げた。
「いっ……!」
張り詰めた空気の中、潰されたカエルのような声が一瞬漏れる。集まる視線に青ざめて、ニコラウスは慌てて真面目顔で姿勢を正した。
「おまっ、こんな時になんてことすんだよ!」
「ニコが締まりのない顔してるからでしょ」
小声で言い合って、再び事の成り行きを見守った。ギリギリのところで理性を保っているが、バルバナスはいつ鞘から剣を抜いてもおかしくない臨戦態勢だ。