宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
そんな様子はお構いなしに、中年神官が不機嫌そうに口を挿んできた。
「罪人とは大げさな。高が王城の廊下で、鼠の死骸が転がっていただけの話でしょう?」
「なんだと? 貴様、クリスティーナの死を愚弄するのか?」
「バルバナス様、落ち着いて」
状況判断を正しくできない神官に呆れながらも、アデライーデはすぐさまバルバナスのそばに寄った。ただ控えているようでいて、寸前でその手をさりげなく制した。それをいいことに中年神官は、得意げにべらべらとしゃべり続けている。
「愚弄も何も、第一王女は病死だったのですよね? ハインリヒ王がそう公表されたではないですか。それに今回の騒ぎには異形の者が絡んでいるとか。神殿の人間に罪をかぶせる前に、もっとまともな捜査をして欲しいものです。まったく騎士団長の名が聞いてあきれる」
「貴様……殺されたいのか?」
「これは何とも野蛮な。とても王族の言葉とは思えませんね。ああ、あなたは王の嫡子として生まれたにもかかわらず、龍に選ばれることなく王になりそこなったのでしたね。そんなお立場では事実を知らされなくても仕方がない。王女は立派に託宣を果たされたのちに、身罷られた。ただそれだけのことなのに、マルコは何の罪に問われているというのでしょう」
「ヨーゼフ、やめるんだ。バルバナス様、この者が大変失礼を申し上げました。今日の所は引きあげますので、どうぞご容赦を」
神官長の制止にヨーゼフと呼ばれた神官は不服そうに口を閉ざした。
「レミュリオ、お前もいいな?」
「わたしは神官長のご判断に従います。マルコさんは素直でやさしい人です。疑いが晴れると信じましょう」
盲目の神官が静かに返すと、神官長は頷いた。
「ではわたしどもはこれで失礼を」
神官たちが出ていったのを確かめて、アデライーデはバルバナスからさっと距離を置いた。その瞬間、近くに置かれた物が腹いせのようになぎ倒される。それだけでは気が収まらなかったのか、バルバナスは勢いよく椅子を蹴り上げた。
壁に叩きつけられ、もはや椅子として機能しない残骸を見やる。バルバナスは最も痛いところを突かれた形だ。人死にが出るよりはましかと、アデライーデは軽く肩を竦めた。
「アデライーデ、お前は先にニコラウスと戻ってろ」
「バルバナス様はどこへ?」
「ディートリヒんとこだ」
乱暴な足取りでバルバナスは部屋を出ていった。残されたふたりで目を見合わせて、同じタイミングで息をつく。
「罪人とは大げさな。高が王城の廊下で、鼠の死骸が転がっていただけの話でしょう?」
「なんだと? 貴様、クリスティーナの死を愚弄するのか?」
「バルバナス様、落ち着いて」
状況判断を正しくできない神官に呆れながらも、アデライーデはすぐさまバルバナスのそばに寄った。ただ控えているようでいて、寸前でその手をさりげなく制した。それをいいことに中年神官は、得意げにべらべらとしゃべり続けている。
「愚弄も何も、第一王女は病死だったのですよね? ハインリヒ王がそう公表されたではないですか。それに今回の騒ぎには異形の者が絡んでいるとか。神殿の人間に罪をかぶせる前に、もっとまともな捜査をして欲しいものです。まったく騎士団長の名が聞いてあきれる」
「貴様……殺されたいのか?」
「これは何とも野蛮な。とても王族の言葉とは思えませんね。ああ、あなたは王の嫡子として生まれたにもかかわらず、龍に選ばれることなく王になりそこなったのでしたね。そんなお立場では事実を知らされなくても仕方がない。王女は立派に託宣を果たされたのちに、身罷られた。ただそれだけのことなのに、マルコは何の罪に問われているというのでしょう」
「ヨーゼフ、やめるんだ。バルバナス様、この者が大変失礼を申し上げました。今日の所は引きあげますので、どうぞご容赦を」
神官長の制止にヨーゼフと呼ばれた神官は不服そうに口を閉ざした。
「レミュリオ、お前もいいな?」
「わたしは神官長のご判断に従います。マルコさんは素直でやさしい人です。疑いが晴れると信じましょう」
盲目の神官が静かに返すと、神官長は頷いた。
「ではわたしどもはこれで失礼を」
神官たちが出ていったのを確かめて、アデライーデはバルバナスからさっと距離を置いた。その瞬間、近くに置かれた物が腹いせのようになぎ倒される。それだけでは気が収まらなかったのか、バルバナスは勢いよく椅子を蹴り上げた。
壁に叩きつけられ、もはや椅子として機能しない残骸を見やる。バルバナスは最も痛いところを突かれた形だ。人死にが出るよりはましかと、アデライーデは軽く肩を竦めた。
「アデライーデ、お前は先にニコラウスと戻ってろ」
「バルバナス様はどこへ?」
「ディートリヒんとこだ」
乱暴な足取りでバルバナスは部屋を出ていった。残されたふたりで目を見合わせて、同じタイミングで息をつく。