宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
力なくうつむいた。もしまた何かあったら、公爵にこの件を報告しなくてはならなくなる。そうなればエーミールの立場も悪くなってしまうだろう。
(わたしのことなどもう放っておいてほしいのに……)
指が白くなるまで拳を握る。ふいにその手をマテアスがやさしく解いてきた。片膝をついて、うつむくエラを覗き込むように見上げてくる。
「今一度、おふたりでお話合いになってみてはいかがですか? 時につまらぬ誤解ですれ違ってしまうこともございましょう。まさにわたしたちの主のように」
諭すように言うマテアスは、自分を追い詰めないような言葉を選んでくれている。手を取られたまま、それでもエラは小さく首を振った。
「わたしの答えが変わることはありません」
「……もう何も言わないお約束でしたね。出過ぎたことを申し上げました」
やわらかく言って、マテアスは立ち上がった。
「エラ様、もしよろしければ、この件をロミルダに話してもかまいませんか?」
「ロミルダに?」
「母は貴族の出です。彼女の言葉ならエーミール様は昔から素直に耳を傾けてくださいます。それにエラ様も、ロミルダの方がお話ししやすいこともおありでしょう」
「そう……ですね。ロミルダだけになら……」
公爵の耳に届くよりはずっとましだ。エラはそう思ってマテアスの言葉にうなずいた。
「ではそのように。もちろん何かありましたら、わたしのこともきちんと頼ってくださいね」
「いつも本当にありがとう……マテアスには迷惑ばかりかけてしまって」
「前にも申し上げましたが、エラ様の笑顔のためならわたしは努力を惜しみませんよ」
そう言われて、自然と口元に笑みが漏れた。
昇りゆく日が刺し込んで、廊下を明るく照らしていく。朝日に染まるエラの笑顔を、マテアスは眩しそうに見た。
そんなことがあった日の夜遅くに、ウルリーケ逝去の知らせがグレーデン家より届けられたのだった。
(わたしのことなどもう放っておいてほしいのに……)
指が白くなるまで拳を握る。ふいにその手をマテアスがやさしく解いてきた。片膝をついて、うつむくエラを覗き込むように見上げてくる。
「今一度、おふたりでお話合いになってみてはいかがですか? 時につまらぬ誤解ですれ違ってしまうこともございましょう。まさにわたしたちの主のように」
諭すように言うマテアスは、自分を追い詰めないような言葉を選んでくれている。手を取られたまま、それでもエラは小さく首を振った。
「わたしの答えが変わることはありません」
「……もう何も言わないお約束でしたね。出過ぎたことを申し上げました」
やわらかく言って、マテアスは立ち上がった。
「エラ様、もしよろしければ、この件をロミルダに話してもかまいませんか?」
「ロミルダに?」
「母は貴族の出です。彼女の言葉ならエーミール様は昔から素直に耳を傾けてくださいます。それにエラ様も、ロミルダの方がお話ししやすいこともおありでしょう」
「そう……ですね。ロミルダだけになら……」
公爵の耳に届くよりはずっとましだ。エラはそう思ってマテアスの言葉にうなずいた。
「ではそのように。もちろん何かありましたら、わたしのこともきちんと頼ってくださいね」
「いつも本当にありがとう……マテアスには迷惑ばかりかけてしまって」
「前にも申し上げましたが、エラ様の笑顔のためならわたしは努力を惜しみませんよ」
そう言われて、自然と口元に笑みが漏れた。
昇りゆく日が刺し込んで、廊下を明るく照らしていく。朝日に染まるエラの笑顔を、マテアスは眩しそうに見た。
そんなことがあった日の夜遅くに、ウルリーケ逝去の知らせがグレーデン家より届けられたのだった。