宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 静かに見つめ返してくる瞳から読み取れるのは、やはり()とする答えだ。王女はどんな思いで東宮へと迎え入れたのだろう。破滅へと導く死神であるこの自分を。

「リーゼロッテ様、どうぞご自分をお責めにならないでください。王女として、最後まで誇り高く生きたクリスティーナ様を、あなたに否定して欲しくない」

 強く言われ、アルベルトの顔を見る。そこに初めて怒りの影を目の当たりにした。

「勘違いをなさらないでください。クリスティーナ様はあなたのせいで命を落としたわけでも、ましてや、あなたのために命を()したわけでもない。この国を守るため、第一王女として龍の託宣を果たされたのです。その矜持(きょうじ)を、安い哀れみなどで汚さないでいただきたい」

 息が詰まって返事ができない。どうしても涙を(こら)えることができなくて、リーゼロッテは一度だけ深く頷いた。

「ありがとうございます、リーゼロッテ様。わたしはもう行かなければなりませんので、これで失礼します」

 立ち上がりかけたアルベルトを見て、はっとする。あの日ヘッダも王女と共に、折り重なるように床に伏していた。今聞かなければきっと後悔する。声を振り絞ってリーゼロッテは問うた。

「ヘッダ様は……どうされているのですか……?」
「彼女は怪我を負ったものの、命に別状はありませんでした。今はバルテン領に戻り、療養なさっています」
「そう……ですか」

 今なら分かる。ヘッダから向けられた悪意は、すべて王女を守りたいが(ゆえ)だったのだ。彼女は今どんな思いで過ごしているのだろうか。それを思うと胸が押しつぶされそうになった。

「実はこれからそのバルテン領に向かうのですよ。わたしはハインリヒ王から貴族の地位を賜りました。そのおかげでバルテン子爵家へ婿養子に入ることになりまして」
「ではヘッダ様と……?」
「はい。これからは彼女を支え、共に生きていきます。それがクリスティーナ様の望みでもありましたから。ヘッダ様もお体が弱い身、今後社交の場に出ることはないと思います。恐らくもうお会いすることもないでしょう。どうぞリーゼロッテ様もお元気で」

 穏やかな表情でアルベルトは去っていった。王女のことを思いながら、彼とヘッダはこれからの時間をふたりで過ごしていくのだろう。


「リーゼロッテ……」

 呼ばれた先に、ジークヴァルトが立っていた。いてもたってもいられなくて、リーゼロッテは泣きながらその腕に飛び込んでいく。

「王城を辞す許可が下りた。もうここに(とど)まる理由はない」

 大きな手がやさしく髪を()く。頬を包まれ、青の瞳と見つめ合った。


「帰ろう。フーゲンベルク家に」

 頷いて、その胸に顔をうずめた。








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