宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
第22話 青龍の紋
暗く、静まり返った部屋の片隅で身を潜めた。
寝台にはアルフレート二世をそれらしく寝かせてある。チャンスがあるとしたら、相手が油断しているはじめだけだ。一瞬の隙をついて、部屋を飛び出すしかないだろう。
ベッティはあのあと、具合が悪いまま神官に連れられて行った。解毒剤のない媚薬は、体から抜けるのを待つしかないらしい。それでもちゃんと手当はしてもらえるだろうか。息遣いも荒くふらふらになったベッティは、ものすごく苦しそうだった。
(毒に強いベッティですら、あんなになってしまうなんて……)
慣れない自分が口にしていたら、今頃どんなことになっていたのか。想像するだけで身震いが起きた。媚薬が効いているはずのリーゼロッテに、今夜、黒幕は会いに来るというのだから。
(大丈夫……わたしはヴァルト様の託宣の相手だもの……きっとちゃんと切り抜けられる)
震える指で胸の守り石を握りしめた。青の波動を感じながら、ひとりじゃないと言い聞かせる。
耳を澄ませても何も聞こえてこない。廊下の足音はいつも大きく響くので、人が来たらすぐに分かるはずだ。やたらと時間が長く感じられて、自分の鼓動だけが耳についた。
このまま誰も来ないのでは。そんな考えが浮かんでくるも、希望は儚く闇の中に溶けこんだ。
ふいに暗がりだった部屋の一角が、青銀色に仄かに光る。夜目が効いているリーゼロッテには、それが扉の辺りだとすぐに分かった。
蝶番を軋ませて、ゆっくりと扉が開いていく。鍵が回される音はしなかった。廊下を歩いてくる足音も。
誰かが入ってくる気配を感じながら、リーゼロッテは必死に息を詰めた。相手が寝台に気を取られているうちに、扉に向かって駆けだそう。だからそれまでは気取られては駄目だ。
しかし人影は寝台には目もくれなかった。迷いなくこちらに向かってくる衣擦れの音に、縮こまらせた体がカタカタと震えた。
「おや? 報告とは少し違う状況のようですね」
寝台にはアルフレート二世をそれらしく寝かせてある。チャンスがあるとしたら、相手が油断しているはじめだけだ。一瞬の隙をついて、部屋を飛び出すしかないだろう。
ベッティはあのあと、具合が悪いまま神官に連れられて行った。解毒剤のない媚薬は、体から抜けるのを待つしかないらしい。それでもちゃんと手当はしてもらえるだろうか。息遣いも荒くふらふらになったベッティは、ものすごく苦しそうだった。
(毒に強いベッティですら、あんなになってしまうなんて……)
慣れない自分が口にしていたら、今頃どんなことになっていたのか。想像するだけで身震いが起きた。媚薬が効いているはずのリーゼロッテに、今夜、黒幕は会いに来るというのだから。
(大丈夫……わたしはヴァルト様の託宣の相手だもの……きっとちゃんと切り抜けられる)
震える指で胸の守り石を握りしめた。青の波動を感じながら、ひとりじゃないと言い聞かせる。
耳を澄ませても何も聞こえてこない。廊下の足音はいつも大きく響くので、人が来たらすぐに分かるはずだ。やたらと時間が長く感じられて、自分の鼓動だけが耳についた。
このまま誰も来ないのでは。そんな考えが浮かんでくるも、希望は儚く闇の中に溶けこんだ。
ふいに暗がりだった部屋の一角が、青銀色に仄かに光る。夜目が効いているリーゼロッテには、それが扉の辺りだとすぐに分かった。
蝶番を軋ませて、ゆっくりと扉が開いていく。鍵が回される音はしなかった。廊下を歩いてくる足音も。
誰かが入ってくる気配を感じながら、リーゼロッテは必死に息を詰めた。相手が寝台に気を取られているうちに、扉に向かって駆けだそう。だからそれまでは気取られては駄目だ。
しかし人影は寝台には目もくれなかった。迷いなくこちらに向かってくる衣擦れの音に、縮こまらせた体がカタカタと震えた。
「おや? 報告とは少し違う状況のようですね」