宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 リーゼロッテからのSOSに思えてならなかった。だがこの事実を、マテアスはいまだ(あるじ)に伝えていない。こんな情報を知ったとしたら、なりふり構わずジークヴァルトは神殿へと飛び出していくに決まっている。そんなことになっては、公爵家は取り潰しの運命まっしぐらだ。

(もっときちんと算段を整えてからでなくては……)

 負け(いくさ)はしない主義なだけで、マテアスとてこのままおとなしく引き下がるつもりはない。神殿に売られた喧嘩だ。首謀者が誰であろうと、絶対に()(づら)をかかせてやる。

 しかし公爵家単独で動くのは自殺行為だ。アデライーデが騎士団長であるバルバナスと、水面下で連絡を取り合っている。騎士団と連携してリーゼロッテ奪還(だっかん)を目指すのが、今選べる最良の手段だった。

 神殿は王家とは独立した組織だが、治外法権(ちがいほうけん)と言うわけではない。神官も国にとっては(たみ)のひとりだ。国民としての権利は保証されるし、罪を犯せば裁かれる。

(一刻も早く、神殿に踏み込む名目が見つかればいいのですが……)

 理由は何だっていい。捜査と称して騎士団が神殿内に入った時に、便乗して乗り込む作戦だ。リーゼロッテを取り戻せるのは、神殿が混乱するその一瞬だけだ。隙を突ける一度きりのチャンスを、何があっても(いっ)してはならなかった。

 ジークヴァルトの体力も精神も、既にギリギリのところまで来てしまっている。このままではすべてが破滅に向かいそうで、マテアスは重いため息をついた。
 いつ何があっても動けるように、今は万全に準備を整えるしかない。

 ずっと膠着(こうちゃく)していた事態が進展の(きざ)しを見せるのは、この数日後のことだった。







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