宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
    ◇
「とりあえず目を閉じるだけでもいいので、一時間は休んでいてください」

 公爵家の執務室にこもり切りの(あるじ)に、マテアスは強めに言った。リーゼロッテが消えて以来、ジークヴァルトはろくに寝ていない。どうせ寝られないのだからと、マテアスは容赦ない量の執務をジークヴァルトに課している。そうでもしないと公爵家を飛び出しかねなくて、この場に押しとどめるための苦肉の策だ。

 仏頂面のまま瞳を閉じた(あるじ)を執務室に残し、マテアスは急ぎ書庫へと足を運んだ。ここ何日も奥書庫に(こも)っては、リーゼロッテが消えた祈りの泉に関する記述を探している。公爵家に神殿に関わる書物はそう多くない。それでもなんとか情報を得ようと、マテアスは必死になっていた。

 ようやく探し当てた一冊に、泉の記述を小さく見つけた。古びた字体が並ぶ()り切れたページを、時間をかけて解読していく。

(泉の奥にありし真の扉は、青龍のための扉……何人(なんぴと)たりとも開くことは許されざる聖なる神の道……)

 これを読む限り、神殿の主張はまるで根拠がないというわけではなさそうだ。
 だがリーゼロッテが神隠しに合ったなどと、マテアスはまったく信じていない。原因があるからこそ結果は生まれる。部屋からリーゼロッテが消えたのだから、その扉が開かれたに違いない。

(王城の間取りからして、青龍の扉の向こうは神殿へと通じているはず……)

 公爵家の情報網で、神殿がへリング領からビョウを定期的に仕入れていることを突き止めた。神官たちは菜食に徹して、季節の恵みを感謝と共に享受する。それを曲げて時期外れの果実を求めるなど、常識からしてあり得ないことだ。
 その上、貴族街の店からある物が神殿へと納品されたらしい。それはリーゼロッテが大事にしている、クマの縫いぐるみと同じものであったと言うから驚きだ。

(これはもう決定的ですねぇ)

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