宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 そう言いながらベッティは、逆にリーゼロッテを座らせた。この部屋には椅子はひとつしかないので、必然的にベッティが立つことになる。

「わたしなら大丈夫ですぅ、媚薬は体から抜けましたからぁ。お気遣いいたみいりますよぅ」
「そう、ならよかったわ」
「リーゼロッテ様は黒幕の正体を見たのですよねぇ?」

 ふと真顔になったベッティに、リーゼロッテは頷いた。あの神官を思い浮かべるだけで、全身に鳥肌が立ちそうだ。

「そいつの名前を言うことはできますかぁ?」

 そう問われて、リーゼロッテは口を開きかけた。だがすぐ困った顔になる。

「やっぱり龍に目隠しされるんですねぇ。いいですよぅ、分かってますからぁ」
「え? いえ、わたくしあの人の名前を忘れてしまって……」

 その返事にベッティはぽかんとなった。

「でも見知った人ではあるのよ? ああ、ちょっと待って、もう少しで思い出せそうなの……! 確か、そう……『まみむめも』とか『らりるれろ』とか、そんな文字列の名前だったはずだわ」
「まみ……らりるぅ?」
「ああ駄目だわ、思い出せない! ちょっとこじゃれた感じの名前だったのに……!」

 両手で頬を抑えながら、リーゼロッテは悔しそうに涙目になった。

「ぷ……ふふふぅ」
「ベッティ?」

 いきなり笑われて、不思議顔になる。ベッティはリーゼロッテの両手を取った。

「次こそはこのベッティが必ずやお守りいたしますぅ。だからリーゼロッテ様はぁ、ずっとそのままでいてくださいませねぇ」

 そう言った後もベッティは、しばらくの間、(こら)えきれないように忍び笑いし続けた。

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