宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「リーゼロッテ様ぁ、起きていらしたのですかぁ?」
 扉が開く音と共にベッティの声がした。

「ベッティ……今、きのこの鼓笛隊が……」
「あっ立派なきのこぉ! わぁ、こんなに大きな卵までぇ。ちょうどよかった一緒に調理しちゃいましょうねぇ」
「えっあっちょっ……!」

 並んだきのこを取り上げて、ベッティは取り出したナイフをきらりと光らせた。あっという間にスライスされて、きのこ隊長は鍋の中に投げ込まれてしまった。

「あまりにおいの出るものは作れませんがぁ、今あったかいスープを用意いたしますからねぇ」

 暖炉に小鍋をかけて、ことこととスープが煮え立ってくる。最後にマンボウの卵をスープに落とすと、木匙(きさじ)でかき混ぜながらベッティは仕上げに塩をぱらぱらと振った。

「塩味だけですがぁ、熱いうちにどうぞお召し上がりくださいぃ」
「だったらベッティも……」
「ベッティは外でいくらでも調達できますからぁ。遠慮なくお腹いっぱいお食べくださいましねぇ」

 湯気の立つ小鍋をみやる。ゆっくりと流れる溶き卵の中で、きのこたちがくるくると躍っていた。

(隊長さん……)

 誇らしげな顔が思い浮かんだ。具だくさんのスープをひと(さじ)すくい取る。

 だしの効いたスープが、喉元(のどもと)を通り過ぎていく。口にしたきのこたちを、リーゼロッテは大事に噛みしめた。
 ゆっくりとゆっくりと、命を味わっていく。噛むほどによろこびが溢れ出て、リーゼロッテの頬に涙が伝った。

「お口に合いませんでしたかぁ?」
「いいえ、ベッティ……とっても……とっても美味しいわ……」

 薄味のスープはやさしい味がした。()み込むように体の奥から、じんわりとあったまっていく。


 この日を(さかい)に森の動物たちが、リーゼロッテへと食べ物を運んでくれるようになったのだった。







< 327 / 391 >

この作品をシェア

pagetop