宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
『遠慮などいりませぬ。我らは姫君の(かて)となるためはせ参じました。姫君の力になるとは、我ら魂が天に昇ると言うこと。それは我らが究極の(ほまれ)。至高のうれしよろこびなのでありまする』
『うれしうれし! よろこびよろこび!』

 きのこたちの熱いまなざしを一身に受けて、リーゼロッテは返事に詰まってしまった。とてもではないが、では遠慮なくとは言いづらい。

『森の仲間たちにも救援を要請しておきました。追加物資も届けられる手はずです。それにかの方も協力したいとおっしゃられておりまする』
「マンボウが協力を?」

 視線を戻すと、マンボウはお尻をこちらに向けていた。突き出すように尾羽(おばね)を震わせ、前傾姿勢で(りき)み始める。

「え? え? え?」

 羽毛(うもう)を割り、マンボウのお尻からみるみるうちに白い玉が押し出されてくる。このまま落ちたら割れてしまう。咄嗟に思って、慌てて手を差し出した。間一髪でほかほかの塊が、リーゼロッテの手のひらの上、産み落とされた。

「た、たまご……?」
 呆然と立派な楕円を見やる。

「マンボウ、あなたって雌鶏(めんどり)だったの……?」

 赤い鶏冠(とさか)を揺らしながら、どや顔でマンボウはおえっと振り返った。

『これで滋養も満点! どうぞ姫君、うれしよろこびで美味しくお食べくだされませ』
「あ! 隊長さん!」

 電池が切れたように、きのこたちが一斉に倒れこんだ。窓枠に転がって、そのままピクリとも動かなくなる。

「隊長さん……?」

 おそるおそる指でつついてみる。そこに並ぶのは、ただのきのこだった。

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