宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 フーゲンベルク領のある方向、日が沈むゆく空を見上げる。地面に片膝をつき、エーミールは取り出した筒を地面に置いた。倒れないように補強して、そばに()かれた篝火(かがりび)から導火線(どうかせん)へと火種(ひだね)を移す。

「なんすか、ソレ?」

 いきなりの声掛けに、ぎょっとして横を見る。そこには膝上に手をあて、暢気(のんき)に火筒を覗き込むニコラウスがいた。

「何をしている、今すぐ離れろ!」

 腕を引きその場を退避する。みるみるうちに導火線が短くなって、筒から爆音が(とどろ)いた。
 ひゅるるるると白煙(はくえん)が伸び、ぱあんと上空で破裂する。これはマテアスに渡された非常用の発煙筒(はつえんとう)だ。どうしても連絡が間に合わないときにだけ、緊急で使うようにと説明を受けていた。

 白煙が風に乗り、夕焼け空に細く流されていく。公爵領は王都より高い位置にある。日が出ている時間帯なら、この(けむり)が遠くからでも目視できるはずだった。

「おお、すげー」

 目の上に手をかざし、ニコラウスが眩しそうに夕日の沈む西を見上げた。そのそばから日が落ちて、辺りが夕闇に包まれていく。

「公爵家への合図ですか?」
「お前はなぜここにいる」

 バルバナスについて、先に神殿へ行ったのではないのか。そう暗に問うと、ニコラウスは思い出したようにエーミールの顔を見た。

「逃げ出さないよう連れてこいと言われまして」
「わたしは逃げたりしないぞ」
「分かってますって! 案内しますから、さ、早く」

 背を押され、エーミールは神殿入り口へと向かった。

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