宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
      ◇
(レミュリオの姿がなかった)

 神殿に入るなり、カイは素早く別行動に出た。証拠隠滅を恐れて、バルバナスは神官の動きを封じることを優先させている。その後じっくり敷地内を捜査するつもりなのだろう。

 この区画は神官の部屋が立ち並ぶ。地位の高い神官の部屋を素通りして、ようやく目的の部屋に辿り着いた。叩く前に扉が中から開かれる。

「これは、カイ・デルプフェルト様。このような場所に自らご足労頂くなど、騎士業もなかなか大変そうですね」
「その様子じゃオレがここに来た理由は分かってるんだ?」
「ええ、先ほど知らせが参りましたから。それで神官長の言いつけ通りに、こうして部屋でおとなしくしていたわけですよ。と言ってもこの時間に部屋にいるのは、普段通りのことですが」

 そう言ってレミュリオは、カイを誘うように大きく扉を開けた。何もない部屋が垣間見える。かろうじて数冊の本が置かれているが、机に丸椅子、寝台があるだけだった。

「どうぞ、中をお調べになるのでしょう?」
「なんでこんな部屋にいるの? レミュリオ殿ならもっと豪華な部屋、使わせてもらえるんじゃない?」

 レミュリオは次期神官長候補だ。こんな奥まった場所の小部屋などではなく、本神殿に近い居室を与えられるべき立場の人間だ。

「広い部屋を与えられたところで、(めし)いた身では持て余すというものです。慣れ親しんだこの部屋に愛着もありますので」

 中に足を踏み入れると、本当に必要最小限の物しか置いていない。それこそ見習い神官が使う様な粗末な部屋だった。
 それでも見落としがないようにと、カイは壁から窓から隈なく確認していった。しかし不審なところは何もない。

「ねえ、そこの!」
 開け放たれた扉の向こう、廊下にいた騎士のひとりに声をかける。

「お呼びでしょうか?」
「この部屋から誰も出ないよう、ちゃんと見張っててくれる?」
「それは命に代えても! この区画はわたしが任されましたので」

 なら安心だ、そう言ってカイはレミュリオを振り返った。

「そういう訳だからレミュリオ殿。白黒つくまで絶対にここから出さないよ」
「もとより部屋を出る気はありませんよ」

 口元に笑みを浮かべたレミュリオを、胡散臭そうにカイは見やる。

「じゃあ、あとはよろしく」
「はっ! お任せを!」

 騎士とレミュリオに見送られる中、カイはその場をあとにした。

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