宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 サロンへ移動すると、男爵と話をするジークヴァルトが見えた。その立ち姿に思わず見惚れてしまう。自覚した途端に世界は見え方が一変する。恋とは得てしてそういうものだ。

「リーゼロッテ」

 呼びかける前にすぐに気づいてもらえて、知らず頬が朱に染まる。名を呼ばれるだけで胸が高鳴って、最近では緩む顔を引き締めるのに苦労しているリーゼロッテだ。

 いそいそとそばまで歩み寄ると、ジークヴァルトは髪を撫でてくる。犬猫を可愛がるようなものだと思っていたこの行為も、ジークヴァルトの愛情表現なのだと素直に思えるようになった。

(駄目だわ。ドキドキしすぎてまた力が暴走しそう)

 呼吸を整えようとした矢先に、ジークヴァルトの指が耳裏をなぞってきた。わざとか無意識なのか、触れるか触れないかの絶妙なフェザータッチだ。くすぐったいだけではないぞくぞくした感触に、リーゼロッテは肩を(すく)めて思わず逃げ腰になった。

「娘から聞き及んでおりましたが、本当に仲睦まじくされていて、見ている方はどうにもあてられてしまいますね」

 朗らかな声の主はエデラー男爵だった。その横でエラも微笑ましそうにこちらを見ている。

「リーゼロッテ様、ご無沙汰しております。本日はお誕生日、誠におめでとうございます」
「ありがとうございます、エデラー男爵様」

 慌てて離れようとするも、ジークヴァルトに逆に引き寄せられる。そのまま当たり前のようにソファの上で膝抱っこをされてしまった。
 サロンには不必要に思える数の使用人と、エデラー商会の人間もいた。その全員の生あたたかい視線を感じて、リーゼロッテは動揺に身をよじらせる。

「どうして離れようとする?」
「だって、みなが見ておりますから……」

 恥ずかしいから人前ではやめてほしい。小声でそう付け加えると、ジークヴァルトは耳元に顔を寄せてきた。

「誰もいない場所なら構わないのか?」

 驚いて見上げると、すぐそこにジークヴァルトの顔があった。瞬間湯沸かしポットのようにリーゼロッテの全身が(ゆだ)るのと同時に、サロン全体がどかんと揺れた。

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