宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
      ◇
「では、クリスティーナ王女。時間が来ましたらまたお迎えに上がります」

 神官たちが去った石壁の部屋でひとり、中央に湧き出ている泉へとクリスティーナは素足を(ひた)した。
 身に着けているのは、顔を覆うヴェールとハイウエストのゆったりした簡素な白いドレスだけだ。(すそ)が濡れることも(いと)わずに、そのまま泉の中へと歩を進めていく。

 泉の(ふち)は階段となっており、進むほどに水底が深くなっていく。階段を下りきるころには、王女の体は腰まで泉の中に(つか)かっていた。

 静かにさざ波を立てながら、いつものように泉の中央へと進んでいく。そこで歩を止めると、胸の前で祈るように両手を組み、菫色(すみれいろ)の瞳を閉じた。その瞬間、泉から白い光の(うず)が放たれる。

 ヴェールがはためき、腰まで伸びた王女のプラチナブロンドが、風もないまま高く巻き上げられる。

(シネヴァの森に神託(しんたく)が降ろされる――)

 遠く、国の最果てにいる巫女が、呼応するように脳裏に呼び掛けてくる。同じ血を受け継いだクリスティーナには、それが過不足なく伝わった。

 ――間もなく、時が満ちる

 とうとうこの歯車が動き出すのだ。たった今降りた神託に、クリスティーナはそのことを知る。逃げ出すことなどできはしない。この国の王女として、己には託宣(それ)を果たす義務がある。

 静まった泉に瞳を開く。名残(なごり)(とど)めたさざ波が、そこにある事実をただ伝えてきた。
 そう遠くない未来に自分は命を落とす。ほかでもない、彼女のために。


「リーゼロッテ・メア・ラウエンシュタイン……わたくしの宿命」






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