宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「義父に? 王城に上がったという話は聞いておりませんが……」
「いや、ダーミッシュ伯爵ではなく、君の実の父親の方だ」

 その言葉に、リーゼロッテは驚きで目を見開いた。

「イグナーツ父様……父は、生きているのですか……?」
「え? 彼はラウエンシュタイン公爵代理として今も健在だ」
「そう……なのですね」

 思いもよらなかったという顔のリーゼロッテに、ハインリヒも思いもよらなくて、どうしたものかとアンネマリーの顔を見た。そのアンネマリーも困惑気味の視線を返してくる。次いでジークヴァルトの顔を見やるも、ぎりと睨みつけられただけだった。

「そうか……リーゼロッテ嬢は何も知らされていなかったのだな」
「父に、会うことはできるのでしょうか……?」
「あ、いや、彼は今どこか山奥にいるらしい」
「山奥に……?」
「ああ、そこら辺はカイの方が詳しいはずだ」

 お茶を濁すように言う。ハインリヒ自身、リーゼロッテの生家であるラウエンシュタインの内情は詳しく伝えられていない。彼女の母親マルグリットが生きているのかさえ分からない状況だ。

「カイ様が?」
「カイは公爵代理と昔からの知り合いだ。次に会ったら聞いてみるといい」

 自分で振っておいて何なのだが、これ以上はさらに墓穴を掘るような気がしてきた。丸投げしてカイに文句を言われそうだと思いつつ、ハインリヒは無理やりこの話を終わらせた。
 雰囲気を察したのか、アンネマリーがさりげなく別のことを話題に乗せた。リーゼロッテの気を引いてくれて、ほっとする自分がいる。

(アンネマリーは本当に掛け替えのない女性だ)

 そのことを再認識する。早くふたりきりの夜を過ごしたくなって、ハインリヒは明日の公務を理由に、早々にこの場を切り上げることにした。

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