宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 それからは欲を満たすだけの日々が続いた。欲しい物を手に入れる衝動を抑えることはしなかった。いい顔をして手をこまねいていたら、何も手にすることなどできはしない。知らぬ間に狡賢(ずるがしこ)い人間にすべてを奪われてしまうのだから。

 幾年月(いくとしつき)も過ぎて、(くれない)の女が自分の元に前触れなく現れた。(けが)れた力を持つ女は、血で汚れた我が身が女神と呼ぶに相応(ふさわ)しい。

 ――この力さえあればイジドーラが手に入る

 風化しかけていた願望がふいに顔をもたげ、その誘惑に(あらが)うことなどできはしなかった。希望が絶望に変わったあの日のすべてに、再び強い光が差し込んだのだ。そのことにミヒャエルは歓喜した。

 紅の女神がどんな存在でも構わなかった。自分を裏切ったイジドーラこそ、穢れたこの手を取るに相応しい女だ。

 遠くに(きぬ)()れの音が聞こえてくる。同時に彼女の気配が近づくのが分かった。

 イジドーラがこの世で最期(さいご)に見るものは、誰でもない(おのれ)の姿なのだ。例えようもないよろこびが胸の奥底から湧き上がってくる。

(ようやく……ようやくだ)


 (ふところ)から取り出した()き身の短剣を、ミヒャエルは汗ばむ手で強く握りしめた。






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