可愛い後輩くんは、スポーツ系御曹司でした ~秘密のギャップで溺愛されています~
「先輩のお弁当はさすがですね! 美味しそう」

 誉められて悪い気はしない。
 料理は好きだし、栄養バランスは頭に叩き込まれている。

 私は毎日手作り弁当だ。
 そう、蓮見(はすみ)くんの言うとおり、食堂は混みすぎてうんざりなのだ。

「いいな~」
「……」

 そんな上目遣(うわめづか)いでワンコのように見てくるのはやめてほしい。

「……おかず、分けてあげるから」
「本当ですか! やった!」

 尻尾(しっぽ)があったら、ブンブン振ってそうな勢いだ。

「卵焼きがいいな!」
「はい、どうぞ」

 机の引き出しから新しい割り(ばし)を差し出すと、首を(かし)げてくる。

「食べさせてくれないんですか?」

 もう、何なの。先輩をからかわないでほしい。
 (ひじ)をついて、そんな目をキラキラさせてこっちを見ないで。
 なまじ可愛いから始末が悪い。

「自分で食べなさい!」

 割り箸を押しつけると、美味しそうに口に運ぶ。
 その目が満足げに細められる。

「美味しそうに食べるわね……」
「美味しいですから! すごいな先輩は!」

 あまりにいい笑顔で言うものだから、うっかり口を(すべ)らせてしまった。

「お弁当、作ってきてあげようか?」
「本当ですか!」

 途端に蓮見くんがぱっと顔を輝かせる。
 私は内心ホッとしていた。
 口うるさくお節介(せっかい)な上司だと思われるのは嫌だから。

「先輩だからね! 後輩の健康管理をしているだけだから!」

 周囲に聞こえるように(くぎ)を刺しておく。
 蓮見くんのことが気になっている女子社員は多い。
 万一、誤解されたらトラブルの元だ。

「仲良いですね」

 通りすがりの事務の中井(なかい)さんがにこやかに声をかけてくる。
 うん、わかってる。探りを入れているんだよね?

「あはは! オカンみたいってよく言われる!」

 あくまで恋愛対象ではない、という意味を込めて言っておく。
 そう、私は年下なんか好みじゃない。
 何より今はリーダーになったばかりで、恋愛なんかしている余裕もない。
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