可愛い後輩くんは、スポーツ系御曹司でした ~秘密のギャップで溺愛されています~
「じゃあ、プールに入ってみましょう」

 九時を過ぎたジムのプールは、私と蓮見(はすみ)くんのふたりだけだ。
 その事実にドキドキしてしまう。

(もう! 何を考えてるの。レッスンなのよ、集中しなきゃ!)

 自分を叱咤(しった)し、そっとプールに入った。

「んっ!」

 水の冷たさに驚いて足が(すべ)ってしまう。

「わっ!」
「危ない!」

 水に顔がつく前に、蓮見くんが腕をつかんでくれた。

「大丈夫ですか?」
「は、はい。ごめんなさい……」

 あまりの醜態(しゅうたい)に顔が赤くなる。
 会社では上司とも対等にやり合うバリキャリなんて噂されているのに。
 まるで子どもみたいだ。

(いい年して水が怖いなんて……)

「大丈夫ですよ」

 優しい声に、私は顔を上げた。

「少しずつ慣れていきましょう。俺がついていますから安心してください!」

 蓮見くんの笑顔は頼もしくて、私はこくりと素直にうなずいていた。

「手につかまってください」

 言われるがまま、差し出された蓮見くんの手につかまる。

「足はつけたままで大丈夫です。少しプールを歩いてみましょう」

 蓮見くんが手を握ってくれているので安心感がある。
 私はこわごわ足を進める。

「あっ、わっ!」

 足を上げると浮力(ふりょく)で体が浮いて、一気にバランスが崩れる。

「大丈夫、ちゃんと持っていますから」
「ありがとうございます……」

 久しぶりに水の中の感覚を思い出していた
 こうやって普通に歩くのも難しい。
 自分でコントロールができなくて、つい恐怖心が()いてしまうのだ。

「うう……」

 私のしかめっ面に気づいたのか、蓮見くんが声をかけてくれる。

「大丈夫、大丈夫ですよ」

 蓮見くんが握った手に力を込める。

「僕がいますから。力を抜いて」
「……っ」

 優しい声に、少しリラックスする。
 プールを往復していると、だんだん歩くのに慣れてきた。

「じゃあ、ちょっとスピードアップしますよ」

 ぐっと手が強く引かれる。

「少し駆け足ぎみで、(はず)むようにしてください」

 言われるままプールの底を蹴っていると、ぐんぐん体が進んでいく。

(わ、軽い……)

 水の中のせいか、あまり体重を感じない。
 ふわふわ浮くように歩くのが楽しく、私は自然に微笑(ほほえ)んでいた。

「いいですね! 水に慣れてきましたね」

 蓮見くんが嬉しそうに笑っている。

「は、はい……」

 なぜか急に恥ずかしくなって私はうつむいた。
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