ガラスの魔法、偽りの花嫁
第10章 揺れる心の行方
翌週、玲奈は新作香水の発表に向けてデパートの特設会場を訪れていた。
大理石の床にディスプレイされたガラス瓶は、光を受けて宝石のように輝いている。
その一本を手に取ると、胸の奥がざわめいた。
――あの夜、研究室で透真が調合していた香りと同じ。
そして、美咲が「彼は忘れられない」と囁いた香りでもあった。
(この香りは……一体、誰のために作られたの……?)
玲奈は目を閉じた。
甘く切ないその匂いに、心は迷路に迷い込む。
透真を信じたい。けれど、美咲の存在が疑念となって胸を焼く。
発表会の準備が進む中、玲奈はスタッフに呼び止められた。
「御園さん、この展示、篠宮社長が特に力を入れているんですよ」
「……社長が?」
「ええ。普段は経営に専念されているのに、珍しいですよね」
玲奈は言葉を失った。
透真が――こんなにも直接関わっている?
その理由は、美咲なのか、それとも……。
答えを探しても、心は揺れるばかりだった。
その夜。
屋敷の廊下で透真とすれ違った。
玲奈は思わず足を止め、勇気を振り絞って問いかける。
「……どうして、あの香りにこだわるんですか」
透真は一瞬、瞳を細めた。
だがすぐに表情を閉ざし、冷たく言い放つ。
「お前には関係ない」
まただ――。
玲奈の胸に痛みが走る。
「……私は、ただ知りたいだけです。あなたの“本当の気持ち”を」
声が震え、涙がにじむ。
けれど透真は沈黙を貫いた。
玲奈の心は、さらに深い闇に沈んでいく。
数日後。
発表会の前夜、玲奈は偶然ホテルのロビーで透真と美咲が並んでいるのを見た。
人目を避けるように、二人は小声で何かを話している。
その距離の近さに、玲奈の胸は締めつけられる。
(やっぱり……美咲さんなんだ)
逃げるように背を向け、涙をこらえて足を速めた。
一方で透真は、立ち去る玲奈の背中を見ていた。
彼女の揺れる瞳、震える肩。
追いかけたい衝動に駆られながらも、その足は動かない。
(今さら……何を言えばいい)
自分が作った“契約”という檻。
それが、彼女との距離をますます遠ざけていた。
嫉妬と後悔と愛情――。
その全てを抱えたまま、透真は黙って夜の闇に飲み込まれていった。
屋敷に戻った玲奈は、自室で香水の瓶を開いた。
ふわりと漂う香りに、胸が痛む。
(この香りの意味が知りたい……でも、聞けない)
ガラスのボトルに映る自分の瞳は、迷いに濁っていた。
揺れる心の行方は、まだどこにも辿り着けないままだった。
大理石の床にディスプレイされたガラス瓶は、光を受けて宝石のように輝いている。
その一本を手に取ると、胸の奥がざわめいた。
――あの夜、研究室で透真が調合していた香りと同じ。
そして、美咲が「彼は忘れられない」と囁いた香りでもあった。
(この香りは……一体、誰のために作られたの……?)
玲奈は目を閉じた。
甘く切ないその匂いに、心は迷路に迷い込む。
透真を信じたい。けれど、美咲の存在が疑念となって胸を焼く。
発表会の準備が進む中、玲奈はスタッフに呼び止められた。
「御園さん、この展示、篠宮社長が特に力を入れているんですよ」
「……社長が?」
「ええ。普段は経営に専念されているのに、珍しいですよね」
玲奈は言葉を失った。
透真が――こんなにも直接関わっている?
その理由は、美咲なのか、それとも……。
答えを探しても、心は揺れるばかりだった。
その夜。
屋敷の廊下で透真とすれ違った。
玲奈は思わず足を止め、勇気を振り絞って問いかける。
「……どうして、あの香りにこだわるんですか」
透真は一瞬、瞳を細めた。
だがすぐに表情を閉ざし、冷たく言い放つ。
「お前には関係ない」
まただ――。
玲奈の胸に痛みが走る。
「……私は、ただ知りたいだけです。あなたの“本当の気持ち”を」
声が震え、涙がにじむ。
けれど透真は沈黙を貫いた。
玲奈の心は、さらに深い闇に沈んでいく。
数日後。
発表会の前夜、玲奈は偶然ホテルのロビーで透真と美咲が並んでいるのを見た。
人目を避けるように、二人は小声で何かを話している。
その距離の近さに、玲奈の胸は締めつけられる。
(やっぱり……美咲さんなんだ)
逃げるように背を向け、涙をこらえて足を速めた。
一方で透真は、立ち去る玲奈の背中を見ていた。
彼女の揺れる瞳、震える肩。
追いかけたい衝動に駆られながらも、その足は動かない。
(今さら……何を言えばいい)
自分が作った“契約”という檻。
それが、彼女との距離をますます遠ざけていた。
嫉妬と後悔と愛情――。
その全てを抱えたまま、透真は黙って夜の闇に飲み込まれていった。
屋敷に戻った玲奈は、自室で香水の瓶を開いた。
ふわりと漂う香りに、胸が痛む。
(この香りの意味が知りたい……でも、聞けない)
ガラスのボトルに映る自分の瞳は、迷いに濁っていた。
揺れる心の行方は、まだどこにも辿り着けないままだった。