ガラスの魔法、偽りの花嫁
第16章 涙の真実
実家に戻ってから数日、玲奈はほとんど眠れなかった。
父の屋敷は落ち着いた静けさに満ちているのに、胸の奥では嵐が吹き荒れていた。
――「契約は契約だ」
――「離したくない」
――「危険だ」
透真の言葉が交互に蘇る。
信じたかった言葉と、突き放された冷たい声。
その狭間で揺れる心は、涙となって夜ごと溢れた。
その頃、透真は玲奈を追うこともできず、苛立ちと後悔に苛まれていた。
執務室にこもり、誰もいない空間で吐き出す。
「……俺は、何を守ろうとしている」
玲奈を苦しめるだけの契約。
美咲に揺さぶられる玲奈の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
守りたいのに、結果的に遠ざけてしまった。
(もう一度、彼女に伝えなければ……)
ある日。
玲奈はデパートの打ち合わせのために実家から出ていた。
廊下を歩くと、背後から声がした。
「玲奈さん、少しお話しできる?」
振り返れば、美咲が立っていた。
完璧な笑みを浮かべ、手には小さな瓶が握られている。
「透真が試作した香水よ。……知ってる? これ、私との記憶から生まれたの」
玲奈の心臓が大きく跳ねた。
美咲は瓶の蓋を開け、香りを漂わせる。
それは確かに、玲奈が愛用してきた香りに似ていた。
「あなたには似合わない。透真が本当に求めているのは――」
その囁きは玲奈の胸を鋭く刺す。
視界が滲み、呼吸が乱れる。
打ち合わせを終え、実家の自室に戻った玲奈は、机に突っ伏して泣いた。
(やっぱり……私なんかじゃなかったんだ)
その時、机の引き出しから一通の封筒が目に入った。
以前、透真がこっそり置いていったメモ。
彼が公に見せることのない、走り書きのような文字。
《この香りは――君の涙の色を写したもの》
震える指で紙を握りしめる。
滲んだ涙がインクを濡らす。
(私の……ために?)
胸の奥に、かすかな光が差した。
だが同時に、美咲の言葉がその光を覆い隠す。
(どちらが真実なの……?)
答えを求めて流れる涙。
その涙こそが、玲奈にとっての「真実」だった。
一方その夜。
透真は屋敷の執務室で、ひとり写真立てを手にしていた。
そこに収められているのは、発表会で香水を語る玲奈の姿。
彼女の瞳が、どれほど真剣で美しかったか――。
胸の奥が熱くなる。
「……もう、嘘は終わりにしよう」
そう呟いた透真の瞳には、決意の光が宿っていた。
父の屋敷は落ち着いた静けさに満ちているのに、胸の奥では嵐が吹き荒れていた。
――「契約は契約だ」
――「離したくない」
――「危険だ」
透真の言葉が交互に蘇る。
信じたかった言葉と、突き放された冷たい声。
その狭間で揺れる心は、涙となって夜ごと溢れた。
その頃、透真は玲奈を追うこともできず、苛立ちと後悔に苛まれていた。
執務室にこもり、誰もいない空間で吐き出す。
「……俺は、何を守ろうとしている」
玲奈を苦しめるだけの契約。
美咲に揺さぶられる玲奈の姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
守りたいのに、結果的に遠ざけてしまった。
(もう一度、彼女に伝えなければ……)
ある日。
玲奈はデパートの打ち合わせのために実家から出ていた。
廊下を歩くと、背後から声がした。
「玲奈さん、少しお話しできる?」
振り返れば、美咲が立っていた。
完璧な笑みを浮かべ、手には小さな瓶が握られている。
「透真が試作した香水よ。……知ってる? これ、私との記憶から生まれたの」
玲奈の心臓が大きく跳ねた。
美咲は瓶の蓋を開け、香りを漂わせる。
それは確かに、玲奈が愛用してきた香りに似ていた。
「あなたには似合わない。透真が本当に求めているのは――」
その囁きは玲奈の胸を鋭く刺す。
視界が滲み、呼吸が乱れる。
打ち合わせを終え、実家の自室に戻った玲奈は、机に突っ伏して泣いた。
(やっぱり……私なんかじゃなかったんだ)
その時、机の引き出しから一通の封筒が目に入った。
以前、透真がこっそり置いていったメモ。
彼が公に見せることのない、走り書きのような文字。
《この香りは――君の涙の色を写したもの》
震える指で紙を握りしめる。
滲んだ涙がインクを濡らす。
(私の……ために?)
胸の奥に、かすかな光が差した。
だが同時に、美咲の言葉がその光を覆い隠す。
(どちらが真実なの……?)
答えを求めて流れる涙。
その涙こそが、玲奈にとっての「真実」だった。
一方その夜。
透真は屋敷の執務室で、ひとり写真立てを手にしていた。
そこに収められているのは、発表会で香水を語る玲奈の姿。
彼女の瞳が、どれほど真剣で美しかったか――。
胸の奥が熱くなる。
「……もう、嘘は終わりにしよう」
そう呟いた透真の瞳には、決意の光が宿っていた。