Same cross

セイムクロス

冬休み最終日、肺が凍りそうな冷たい空気を吸いながら、期待を胸にして駅へと向かう。
 いつもはなんとも思わないこの道も今日はまるでランウェイみたいで、普段はうるさいとしか思わないカモメも、朝イチの漁から帰ってきた船
 全てランウェイの演出のように思えた。
 ピンクとホワイトがストライプになっているこのニットが、俺の体から高揚を感じ取っているかのように静電気を立てて、少し痛 
 い。でもこの痛さも、この服を着るためだと思うと光栄な痛みだ。
駅に着くと向かいのホームに部活終わりのいつもの集団がいた。
 騒がしいその集団は次第に俺の方に視線を向けてきた。
「おい!橋本!お前今日も女みてえな格好してんのかよ!」
 集団の中の一人が手でメガホンのような物を作って俺に叫び始めた。
「お前、今日はあのひらひらしてるスカート履いてないんだな!」
この猿みたいに騒いでいる奴らは中学からの同級生 「杉本 春」だ。あいつは中学生の頃から、俺の服装をバカにしてくる。
 相手するだけ無駄だから毎回無視しているが、流石に最近は鬱陶しい。
 俺は大きく息を吸い、がちゃがちゃと俺に突っかかってくる杉本を無視した。
 電車が到着してすぐ、俺はホームの向かいにいるやつらを視界に入れないように電車に乗り込んだ。
  
杉本が言っていた通り、俺は可愛い服を好んで着る。
 レースのスカートからベロアのセットアップまで、とにかくこの世の可愛い服をこよなく愛している。そして正直、俺は可愛い服が似合いすぎてしまう。
 自意識過剰みたいだが、フェミニンな服を着た俺は結構かっこいいし、可愛い。
 これは自信を持って言える。
 だから杉本みたいなやつに何を言われても、自分が満足しているわけだから何も思わない。
 
二時間という長い時間電車に揺られて俺は東京の中心、原宿に来た。
 今日俺が気合を入れてお洒落をした理由、それはまさに、俺の大好きな洋服ブランド「ミシェル」の期間限定ストアが開催されているからだ。
 バイト代を貯めて買ったミシェルのトップスに身を包み首元のネックレスが奏でる金属音に合わせて俺は歩幅を弾ませた。
 店に着くと中は沢山の人で溢れていた。
 店内には商品を見ている人、お洒落に飾られた店内の写真を撮る人など沢山の人がいた中で特に人が集まっているコーナーが俺の目に入った。
 何のために列に並んでるのか気になった俺は最後尾に並んでいる人に声をかけた。
「すみません、これって何かに並んでるんですか?」
「あ、この列は美月さんのサイン会の列ですよ!」
 返ってくる答えを予想しながらした質問は、親切な回答と共に耳を疑う答えとなって返ってきた。
 (れ、美月さんのサイン会?あ、あの礼さん?)
 美月さんとはこのブランド、ミシェルの生みの親であり、俺の憧れの人だ。
 ブランドの服を全て一からデザインしていて、デザインのユニークさから様々な層から人気を博している。
 多くの人に名を知られている美月さんだが、メディアに露出が少なく今だ謎に包まれている人だ。
 それが理由だったのかと納得していた俺は、早速サイン会に参加するべく商品を買って引換券をゲットし、列に並んだ。
 列に並んでいる間、一体どんな人なんだろうか、何を話そうかなど頭をぐるぐるさせていたうちに俺の順番はどんどん近づいていった。
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